2025/09/30
「ポートランドで今起きていること ― 医療と社会への警鐘」
序文
前回のブログでは、オレゴン州の革新性と医療文化についてご紹介しました(👉 「オレゴンの革新性と医療の未来 ― 尊厳死と多様性から考える」)。
実は私自身もオレゴンで学び、今も同州の医師免許を持っています。
そのオレゴン州ポートランドで、現在大きなニュースが起きています。
ポートランドでの緊張
- 9月27日、トランプ大統領は「戦火にあえぐ都市」と表現して、連邦部隊の投入を承認したと発表しました。
- 州知事ティナ・コテック氏は「挑発に乗らないように」と住民に呼びかけました。
- 翌28日、州と市は連邦政府を相手取り訴訟を提起。国防長官ピート・ヘグセス氏が200名のオレゴン州兵を連邦任務に召集し、最大60日間展開する計画を阻止しようとしています。
- 問題の発端となっているのは、市中心部から約2マイル離れたICE(移民・税関取締局)の施設前で続く小規模な抗議活動です。移民政策や収容のあり方に反対する人々が集まり、施設の出入りを妨害しようとする動きがあり、連邦職員との小競り合いになることもありますが、大規模な暴動ではありません。
- トランプ氏の発言はソーシャルメディアで拡散され、政権関係者も「犯罪に覆われた戦場」と表現しました。
- これに対し、ウィルソン市長は「大統領が描く姿は現実と違う。市民はスポーツ観戦や外食を楽しんでいる」とコメント。住民もSNSに「平和な週末の街」の写真を投稿し、皮肉を交えて反応しました。
- NYTによると、銃犯罪や殺人事件は減少傾向にあり、ICE施設前での逮捕件数も直近3か月で減少。抗議活動自体は沈静化していましたが、大統領の発表後には約100人が集まり抗議を再開しました。
- 訴状では「ポートランドは戦火にあえぐ都市ではなく、抗議は限定的で地元で管理可能」とし、軍事的対応は不必要だと主張されています。
- 同紙はまた、ポートランドが「左派の象徴」としてしばしば全国政治で取り上げられてきた背景にも触れています。抗議活動の歴史、多様性を重んじる文化、連邦との距離を置く条例などが理由です。
医療に重ねて考える
- 不安と健康への影響
「戦火の街」と表現されること自体が、市民の安心感を揺るがし、心身のストレスにつながります。ストレスは生活習慣病やメンタルヘルスに直結します。 - 自由と自己決定
オレゴン州は尊厳死法を持つ州であり、患者の意思を尊重する文化を築いてきました。社会の自由や自治が制約されると、医療における選択の自由も脅かされる可能性があります。 - 地域の自律性と信頼関係
今回、州や市が「地元で対応できる」と訴えたのは、地域の課題を地域で解決しようとする自律性の表れです。医療も同じで、地域の特性や患者さん一人ひとりの声を尊重することが、安心して治療を受けられる信頼関係につながります。中央からの一方的な介入ではなく、地域の実情に根ざした取り組みこそが医療を支える土台になります。
結び
このニュースは決して軽く受け止めてよいものではありません。
ポートランドでの出来事は、「不安」「自由」「自治」というテーマをめぐる社会的な緊張を映し出しています。そしてそれは、私たちの医療が大切にしている価値そのものでもあります。
オレゴンで学び、今もご縁を持つ私にとって、この出来事は遠い世界の話ではなく、日々の診療を支える考え方に直結するものだと感じています。
医療は地域に根ざしながらも、常に世界の動きと無関係ではありません。海外での議論や経験に触れることで、より広い視野から患者さんに向き合える ― そのような姿勢をこれからも大切にしていきたいと思います。