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🩺 健診における甲状腺の触診 ― これはムダ医療?日本の安心と、海外の合理性のあいだで
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🩺 健診における甲状腺の触診 ― これはムダ医療?日本の安心と、海外の合理性のあいだで

前回のブログ 👉 🩺ムダ医療の正体と「何もしない勇気」
では、ホリエモン氏の発言をきっかけに、「医療の“ムダ”とは何か?」をテーマに検査や治療を増やすことのリスク、そして“やらない勇気”について考えました。

今回のテーマは「甲状腺の触診」。
日本の健診では当たり前のように行われていますが、世界的に見れば、それは「必要な医療」なのか?それとも「ムダ医療」なのか?
各国の方針と文化の違いを見比べます。


🇯🇵 日本の健診文化 ― 「安心を形にする」医療

健康診断の際に「首を触りますね」と言われるあの瞬間。医師が軽く喉元を押さえているのは、甲状腺の触診です。
日本ではごく当たり前に行われていますが、実は、アメリカでは推奨されていない検査であることをご存じでしょうか。

日本甲状腺学会のガイドライン(2021)では、触診は臨床評価の一部として位置づけられ、異常を認めた場合に血液検査や超音波検査を追加するという段階的評価が推奨されています。
このプロセスにより、過剰な検査を避けつつ、臨床的に意味のある異常を拾い上げることが目的とされています。

触診で見つかる結節の多くは**良性結節(約70〜80%)**と報告されており(Ito et al., Endocr J. 2018;65:1251–1260)、多くは定期観察で十分と判断されます。


🇺🇸 米国 ― 触診もスクリーニングも「推奨せず」

**U.S. Preventive Services Task Force(USPSTF, 2017)は、
無症状成人に対する甲状腺がんスクリーニング(触診・超音波)を
推奨しない(Grade D)**と勧告しています。
理由は、発見率の増加が必ずしも死亡率の低下につながらず、むしろ過剰診断・過剰治療のリスクが上回るためです。
(参考:JAMA 2017;317:1882–1887

米国では1980年代以降、画像診断の普及により小サイズの無症候性がんの検出が増加し、
診断率は約3倍に上昇しましたが、死亡率はほぼ横ばいでした。
これは、早期発見の多くが臨床的意義の低い病変であることを示唆しています。

手術後の合併症には、声帯麻痺(報告1〜3%)や甲状腺ホルモン補充の必要(約20〜30%)があり、
治療選択の際には患者のQOL(生活の質)も考慮されます(Haugen et al., Thyroid 2016)。


🇰🇷 韓国 ― 「世界最大の過剰診断」からの教訓 🎶

2000年代の韓国では、民間健診での甲状腺超音波スクリーニングが急速に普及しました。
結果、甲状腺がんの発見率は約15倍に増加しましたが、死亡率は不変でした。
(参考:Ahn HS et al., NEJM 2014;371:1765–1767

つまり、検査技術の進歩が「命を救う」よりも「見つけすぎ」を生んだ形です。
韓国政府はその後、過剰診断・過剰治療の是正を目的に、2015年以降スクリーニング縮小を勧告しました。

“보이는 게 전부가 아니야(見えるものがすべてじゃない)”
― 医療も“発見=利益”とは限らないという教訓です。


📊 各国の指針比較(2024年時点)

国・地域 無症状者への触診 超音波スクリーニング 主な懸念・結果 出典
🇯🇵 日本 一般的に実施 所見・症状で判断 経験依存・安心志向 日本甲状腺学会 2021
🇺🇸 米国 推奨せず(Grade D) 推奨せず 診断率3倍↑・死亡率→ JAMA 2017
🇰🇷 韓国 一時期流行 大量実施→縮小 発見率15倍↑・死亡率→ NEJM 2014

🧠 日本における「経過観察」の実際

日本では、異常が見つかった場合でもすぐに治療に進むのではなく、
血液検査(TSH、FT4など)や超音波所見に基づき、経過観察または追加検査を判断します。
低リスク結節の場合、6〜12か月後に再評価を行い、増大傾向やリンパ節腫大があれば精査・細胞診を検討します。
(参考:日本甲状腺学会ガイドライン 2021


💬 「安心」と「過剰」の境界

甲状腺の触診は「安心を形にする」文化の象徴でもありますが、
その安心が過剰になれば「ムダ医療」に変わる危険もあります。
一方で、まったく検査をしないのもリスクです。

つまり大切なのは、**“必要な人に、必要なタイミングで”**行うこと。
検査を行う目的・限界・リスクを医師と共有し、情報に基づいて選択する――
これこそが真の「安心」につながります。


🔍 まとめ ― 「過剰診断」と「ムダ医療」のあいだで

韓国の“過剰診断”と日本の“ムダ医療”は、方向こそ異なりますが根は同じです。
「安心を求めすぎる医療」と「慣習で続く医療」、その両方が医療の最適化を阻む要因になり得ます。

ホリエモン氏が言う「病院はサービス業」という言葉も、
単なる挑発ではなく、科学的妥当性と人間的安心の両立を問い直すメッセージとして受け取ることができます。


❓Q & A

Q1. 🐣 首を触られて「少し腫れてます」と言われました。すぐに超音波が必要?
→ すぐにとは限りません。年齢・症状・触診所見を踏まえ、まずTSHなどの採血超音波の要否を医師と相談。小さな結節なら6〜12か月ごとの経過観察が妥当なこともあります。

Q2. 🐿️ 「経過観察」って放置と同じ?
→ ちがいます。“最適なタイミングで評価する”計画的な管理です。再検査の時期・方法を医師と一緒に決めましょう。

Q3. 🐻 検査を増やせば安心ですよね?
安心=検査の数ではありません。検査が増えるほど偶発的な異常が見つかり、不要な手術や合併症のリスクも上がります。必要な検査を最小限で確実に行うことが大切です。

Q4. 🐰 手術のデメリットは?
→ 声帯麻痺(約1〜3%)、甲状腺機能低下によるホルモン補充(20〜30%)など。命を守るための手術に限定して選ぶのが理想です。

Q5. 🦊 海外は触診しないの?
→ 米国では無症状者へのスクリーニングは推奨されません(Grade D)。韓国では“検査ブーム”が過剰診断を招き、発見率15倍↑・死亡率→の結果から縮小へ。日本は「所見があれば確認」という中庸型です。

Q6. 🐥 不安なときはどうすれば?
→ 迷ったときは医師に相談してください。必要な検査・説明・フォローを一緒に考えることで、「安心の健診」に近づけます。

Q7. 🎤 先生はK-POPや韓流ドラマ、何が好きですか?
→ BTS(방탄소년단)の「Butter」と、
IU(아이유)の「Love poem」が好きです。
ドラマでは「ウ・ヨンウ弁護士は天才肌」を観ました。
“건강도, 마음도, 리듬 있게(健康も心も、リズムよく)”がモットーです。


🧩 参考文献

  1. USPSTF. Screening for Thyroid Cancer. JAMA. 2017;317(18):1882–1887.

  2. Ahn HS, et al. NEJM. 2014;371:1765–1767.

  3. Ito Y, et al. Endocr J. 2018;65:1251–1260.

  4. Haugen BR, et al. Thyroid. 2016;26(1):1–133.

  5. 日本甲状腺学会「甲状腺腫瘍診療ガイドライン 2021」


🏥 クリニックからのお知らせ

📍 戸塚クリニックでは、日本甲状腺学会などのガイドラインを参照し、甲状腺の診察・採血・超音波検査を実施しています。
検査の内容や時期については、症状や結果に応じて医師がご説明します。

※本記事は一般的な医療情報の提供を目的としており、個別の診断・治療方針を示すものではありません。

 

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