男性更年期(LOH)とは? ― 若い世代にも起こる“ホルモンの疲労”とは

「最近、朝から疲れている」「やる気が出ない」「集中できない」
そんな声を、40〜50代の男性からよく聞くようになりました。

そしてテレビや週刊誌では「男性の更年期=ホルモン補充で解決!」という見出しも並びます。

しかし――
ホルモンを“補う”ことが本当に正解でしょうか?
医学的には、もっと慎重な考え方が必要です。

🧠 LOH(加齢性男性性腺機能低下症)とは

LOH(Late-Onset Hypogonadism:加齢性男性性腺機能低下症)は、40歳以降の男性に見られる加齢によるテストステロン低下を指します。日本では「男性更年期」とも呼ばれ、意欲低下・倦怠感・性欲減退・不眠・抑うつ傾向などを伴います。

📘 参考:
Endocrine Society Clinical Practice Guideline, 2018
EAU Sexual & Reproductive Health Guidelines(男性性腺機能低下章を含む)
日本泌尿器科学会『LOH症候群診療の手引き 2022』PDF

⚖️ ホルモン補充療法(TRT)は「誰にでも」行うものではない

米国Endocrine Societyの指針では、次の2条件を満たす場合にのみTRTを検討すべきとされています。

  1. 朝の採血で2回以上、テストステロン低値が確認されること
  2. 症状が持続し、睡眠不足・うつ病・肥満など他の要因が除外されていること

つまり、「少し低い=補う」ではなく、
生活リズムやストレスの影響を見極めた上で慎重に判断する必要があります。

📗 関連:Bhasin S. et al., J Clin Endocrinol Metab 2018;103(5):1715–1744

👨‍⚕️ 若い世代にも見られる「似た症状」

ここ数年、当院でも30代前半の男性から、
「朝起きるのがつらい」「集中できない」「以前より元気が出ない」
といった相談が増えています。

🧩 症例:30代前半男性

他院で「テストステロンが低い」と言われ、
ホルモン補充療法(TRT)を勧められたため当院を受診。

再評価では:

  • 総テストステロン:やや低値
  • 遊離テストステロン:軽度低下
  • LH・FSH(下垂体ホルモン):正常
  • プロラクチン・甲状腺ホルモン:正常

👉 下垂体や精巣の器質的障害はなく、機能性低ゴナドトロピン性性腺機能低下症(Functional Hypogonadism)が疑われました。

これは、ストレス・睡眠不足・体重変動・心理的負担などにより
脳の視床下部‐下垂体系のリズムが一時的に抑制される状態であり、
加齢性LOHとは異なる一過性のホルモン低下です。

📙 参考:Corona G. et al., Nat Rev Urol 2020;17(11):639–654.

💡 当院の判断 ― 回復療法と「不安解消のための紹介」

この男性の生活リズムに明確な乱れは見られませんでしたが、
長時間労働や責任の重圧など、目に見えないストレスが背景にある印象でした。

そのため当院では、回復療法(Reactivation Therapy)を中心に提案しました。

🩺 回復療法の基本

  • 睡眠:7時間前後の確保、夜間スマホ・照明制限
  • 運動:軽い筋トレや有酸素運動によるホルモン軸刺激
  • 栄養:高タンパク・低糖質・アルコール節制
  • 精神的ケア:ストレス軽減・休日の休息確保

「前医でホルモン補充が検討されていた」という状況を踏まえ、患者本人の不安を取り除くために 機関病院(内分泌科)へ紹介しました。これは治療方針の否定ではなく、 複数の医師で評価し安心を得るセカンドオピニオン的連携です。
紹介後の詳細な経過は当院では追っていませんが、患者本人は「安心して生活を整える気持ちになれた」と前向きな姿勢を示されました。

⚠️ 若年層でのホルモン補充療法(TRT)は慎重に

テストステロン補充は短期的に元気が出るように感じても、
若年男性では以下のようなリスクがあります。

リスク 内容
精子形成抑制 自前のホルモン分泌が止まり、不妊につながる可能性
多血症 血液が濃くなり血栓リスク増加
自然回復阻害 補充をやめても自己分泌が戻りにくくなる
心理的依存 「補充しないと調子が出ない」と感じる傾向

📘 参考:
FDA Drug Safety Communication(2015)
FDA Class-wide Labeling Changes(2025更新)

❤️ 戸塚クリニックの立場

当院では、
・ LOH(加齢性テストステロン低下)
・ 若年層の機能性低下(Functional Hypogonadism)
の両方に対して、検査・説明・生活指導・紹介を行っています。

ただし、テストステロン補充療法(TRT)は当院では実施していません。
必要に応じて専門医との連携を行い、
安全で納得できる治療方針を患者さんとともに選択します。

「ホルモンを足す」より、「体のリズムを取り戻す」。
それが当院の“回復療法”の基本です。

🌿 最後に ― 不安を安心に変える医療を

「ホルモンの数値が低い」と言われたとき、
誰もが不安になります。
けれども、それがすぐ“病気”とは限りません。

体には、自分で回復する力があります。

戸塚クリニックでは、検査・説明・紹介・生活改善支援を通じて、
患者さんの不安を安心へと変えるお手伝いをしています。

💬 「この病院なら、自分の体を信じてみよう」
そう感じてもらえる医療を、これからも大切にしていきます。

 


参考文献