PSA検診の光と影 ― 23年追跡で見えてきた本当の意味(NEJM 2025年10月29日掲載)

ERSPC最終報告/欧州8か国・約16万人・中央値23年追跡

本記事は健康啓発を目的とした一般情報であり、検査や治療を直接すすめるものではありません。最終判断は主治医・ご家族とご相談ください。

原著(本文):New England Journal of Medicine(NEJM, 2025年10月29日)

🔍 PSA検査とは?

PSA(ピー・エス・エー)は前立腺から分泌されるたんぱく質です。血液検査でPSA値を測ると、前立腺がんの可能性を推測できます。ただし、PSA高値=がんとは限らず、前立腺肥大症や炎症でも上昇します。異常時はMRI(磁気で体内を詳しくみる検査)や生検(細胞を採って顕微鏡で確認)で評価します。

🧭 この研究でわかったこと(ERSPC最終報告)

55〜69歳の男性約16万人を、検診招待群と非招待群で比較し23年間追跡しました。主要結果:

  • 前立腺がん死亡率:13%低下(率比0.87, 95%CI 0.80–0.95)
  • 検出率:1.3倍(検診群でがんが見つかる人が増加)
  • 456人を検診して1人の死亡を回避
  • 過剰診断:12人が診断されても11人は生涯に影響しない可能性

つまり、命を救う利益見つけなくてもよかったがん(過剰診断)が同時に存在します。

⚖️ 「早期発見」は良いことだけではない

利益:進行がんの発見につながり、前立腺がんによる死亡を減らす効果が示されました。

不利益:進行の遅い“おとなしいがん”まで見つかり過剰診断・過剰治療が生じます。治療により勃起障害(ED)・尿漏れ・骨量低下などが起こり、生活の質(QOL)が下がることがあります。

大切なのは、利益と不利益を理解して賢く選ぶことです。

⏳ それでも進化している ― “全員検診”から“必要な人へ”

ERSPCでは追跡が16年→23年へ延長される過程で、救える命の割合が増え、不必要な診断は減る傾向が見られました。背景には、以下のような段階的精査の普及があります。

  • MRI:危険度の高い病変を選別しやすくする
  • リスク計算ツール:年齢・家族歴・PSA推移などを組み合わせ、精査が必要な人を抽出

いきなり生検ではなく、必要な人に焦点を当てる検査へ移行しています。

🧓 「やめどき」も大切です

70歳以上余命15年未満の方では、PSA検診の利益は小さいとされています。

“長生き”だけでなく、“どう生きたいか”という価値観も踏まえて判断しましょう。

💡 検査を受けたほうがよい人(日本での実用性を明確化)

  1. 50歳以上の男性(多くの指針で目安)
  2. 家族に前立腺がんの人(父・兄弟):発症リスクは約2倍
  3. 排尿トラブル(頻尿・残尿感・尿が出にくい等)が続く人
  4. 今後15年以上の余命が見込まれる人(長期的に利益が出やすい)
  5. (海外データ)アフリカ系・カリブ系の血統:日本では該当者は少数で臨床的影響は限定的

※70歳以上でも家族歴が強い・健康で活動的などでは、主治医と個別検討の余地があります。

❓ Q&AでわかるPSA検診

Q1. PSAが高いと、必ずがんですか?

いいえ。前立腺肥大症や炎症でも上がります。PSAは可能性のサインで、確定は生検などで判断します。

Q2. 何歳から受けるべきですか?

一般的には50歳前後が目安。家族歴がある場合は40代後半からの検討が現実的です。

Q3. PSAが低ければ安心ですか?

“ゼロではない”ため、定期的なPSA推移の確認が安心につながります。

Q4. PSAが高いと言われたら?(検査後の流れ)

①再検で確認 → ②MRIで精査 → ③リスクが高ければ生検を検討。すぐ治療ではありません。利点・不利益を確認しながら進めましょう。

Q5. 検査を受けない選択は間違い?

いいえ。どちらを選んでも“正解”になり得ます。自分の価値観(何を大切にするか)で選ぶことが重要です。

Q6. どこで相談すればよい?

かかりつけ医・泌尿器科へ。小さな不安でも遠慮なくご相談ください。検査も治療も選べる医療です。

👨‍⚕️ 医師の立場から(情報提供)

前立腺がん検診は、「やる/やらない」の二者択一ではありません。年齢・体調・家族歴・価値観によって最適解は変わります。迷ったら相談してください。納得のいく選択を一緒に考えましょう。

📚 参考文献(公式・第三者資料)


※本記事は健康啓発を目的とした一般情報です。検査・治療を直接すすめるものではありません。最終判断は、主治医・ご家族とご相談ください。

次回予告:PSA検診の“次世代化”──MRIとAIが変えるリスク層別化(近日公開)