NAD+サプリで若返りは本当に可能? ― 米国で話題の「長寿分子」を科学的に検証する(The New York Times, 2025-10-23)
イントロダクション
「若返り」「細胞を蘇らせる」などの宣伝とともに、近年、NAD+(ニコチンアミド・アデニン・ジヌクレオチド)を増やすサプリや点滴療法が注目されています。国内でも自由診療を中心にNAD+点滴が提供され、前駆体のNMN(ニコチンアミド・モノヌクレオチド)サプリも人気です。
ただし、これらは日本では医薬品として承認されておらず、健康保険の適用外(自由診療・健康補助食品扱い)です。さらに、長期的な有効性や安全性は科学的に確立されていません。米国の専門家も「科学的根拠はまだ十分ではない。過度な期待は禁物」と注意喚起しています(The New York Times, 2025-10-23)。
NAD+とは何か
NAD+は全ての細胞に存在する補酵素で、エネルギー産生、DNA損傷修復、炎症制御などに関与します。加齢に伴って体内量が低下し、老化や臓器機能低下と関連することが報告されています。このため「NAD+を増やせば老化を遅らせられるのでは」という発想が生まれています。
サプリや点滴で増やせるのか
米国では、NAD+点滴や前駆体(NMN・NRなど)のサプリが「長寿療法」として販売されていますが、FDAの承認はありません。ヒトでの臨床試験は小規模かつ短期で、効果は限定的です。
- 動物実験では健康寿命延長や代謝改善の可能性が示唆
- ヒト試験は期間が短く(10〜12週間程度)、効果は小さいか不確実
- 長期的な有効性と安全性は未確認
専門家の見解
- 今井眞一郎(ワシントン大学):NAD+低下と老化の関連はあるが、因果関係は確立されていない。
- Eduardo Chini(メイヨークリニック):病気治療研究には期待するが、若返り目的の使用は時期尚早。
- Joseph Baur(ペンシルベニア大学):肝機能などの潜在的リスクや製品品質のばらつきを懸念。
市販製品の品質とリスク
分析では、市販NMN製品の多くで表示と実際の含有量が一致しない例が報告されています。副作用は頭痛や筋肉痛など軽度の報告が中心ですが、長期服用によるリスク(肝機能など)は不明です。短期的に安全そうに見えても、長期安全性は未確立です。
まとめ:過剰な期待に注意
- NAD+を補うことで若返るという明確な科学的証拠は現時点でない。
- 短期の安全性は一定の範囲で示唆されるが、長期効果・副作用は未解明。
- 医学的効果をうたう表示は誤解を招くおそれがある。
- 自由診療で検討する際は、医師と相談し、エビデンス段階を理解した上で慎重に判断する。
「サプリで若返る」という表現は魅力的ですが、現時点では生活習慣の改善を補う補助的選択肢の一つとして、リスクと限界を理解して活用するのが現実的です。
参考(記事引用)
免責事項・法的注記
本記事は海外報道および学術情報に基づく一般向けの情報提供であり、特定の治療・製品・自由診療を推奨するものではありません。本文のサプリメント・点滴療法は日本国内では医薬品として未承認で、健康保険適用外(自由診療・健康補助食品)です。個別の症状や体質に応じた判断は、必ず医師にご相談ください。
