横浜市戸塚区の戸塚クリニック|内科・循環器内科・糖尿病・内分泌内科・甲状腺

戸塚クリニック

総合内科

小児科

循環器内科

糖尿病外来

戸塚駅西口徒歩10分/駐車場10台
GLP-1薬は「みんなの薬」になるのか? ――ウゴービ&ゼップバウンド、アメリカの薬価革命と日本のこれからを医師がやさしく解説
  • HOME
  • ブログ
  • GLP-1薬は「みんなの薬」になるのか? ――ウゴービ&ゼップバウンド、アメリカの薬価革命と日本のこれからを医師がやさしく解説

※本記事は医学情報の提供を目的としたものであり、特定の薬剤の使用を勧誘・保証するものではありません。
実際の治療は、必ず診察のうえで担当医とご相談ください。


GLP-1薬は「みんなの薬」になるのか?
――ウゴービ&ゼップバウンド、アメリカの薬価革命と日本のこれからを医師がやさしく解説

■ まず一言でまとめると

2025年秋、アメリカでは政府と製薬企業の新しい薬価スキーム(通称 TrumpRx)によって、GLP-1系の肥満症治療薬(ウゴービ、ゼップバウンドなど)の 「公的保険での薬価目安」が大きく下がり、Medicare/Medicaidでの利用もしやすい方向に動いています。

一方、日本では ウゴービ(Wegovy:2023年保険適用)ゼップバウンド(Zepbound:2025年承認・保険適用) が肥満症で適用となっていますが、高齢化・サルコペニア(筋肉量低下)のリスクも踏まえ、

「誰でも気軽に痩せる薬」ではなく、慎重に適応を選ぶ“疾患治療薬”

として位置づけられています。

横浜・戸塚クリニック院長の村松です。今日は、2025年秋のNYT報道やポッドキャストをきっかけに、GLP-1薬をめぐる「世界の今」と「日本のこれから」を整理してみます。

◎参考ポッドキャスト:
The Daily “Ozempic for All?”(2025年11月14日配信)
https://www.iheart.com/podcast/326-the-daily-28076606/episode/ozempic-for-all-307044903/
(内容の詳細は transcript を参照)


1. GLP-1薬って、結局どんな薬?

名前はいろいろありますが、ざっくり分けるとこうなります。

  • ウゴービ(Wegovy):GLP-1受容体作動薬。肥満症治療用。日本でも保険適用。
  • オゼンピック(Ozempic):同じ成分「セマグルチド」だが、2型糖尿病治療薬として承認。
  • マンジャロ(Mounjaro):GIP/GLP-1二重作動薬。2型糖尿病治療薬。
  • ゼップバウンド(Zepbound):マンジャロと同じ有効成分「チルゼパチド」を、肥満症に適応拡大した薬。日本でも肥満症で承認・保険適用。

これらの薬は、体内のホルモン GLP-1 の働きを高める/似た作用をすることで、

  • 食欲を自然に抑える
  • 胃の動きをゆっくりにして、少ない量で満腹感を得やすくする
  • 血糖値が高い時だけインスリン分泌を助ける

臨床試験(STEP試験、SURMOUNT試験など)では、平均 10〜15%の体重減少 に加え、

  • 心筋梗塞・脳卒中など心血管イベントのリスク低下
  • 脂肪肝(NASH)や睡眠時無呼吸の改善
  • 腎臓病の進行抑制

といった “おまけ効果” も報告されています。

ただし、ここが大事なポイントです。
GLP-1薬は「美容目的の痩せ薬」ではなく、生活習慣病・肥満症を治療するための“疾患治療薬”です。


2. アメリカで何が起きたか――供給不足 → 「調剤版GLP-1」の氾濫 → TrumpRx

2-1. 供給不足と「調剤版GLP-1」の問題

オゼンピックやウゴービが「奇跡の薬」として大ヒットし、2023〜2024年にかけてアメリカでは深刻な供給不足が起きました。

その穴を埋める形で、FDA(米食品医薬品局)は一時的に「調剤(compounding)版 GLP-1」の製造・販売を特例で認めましたが、その結果、

  • 有効成分や濃度が不明確な製品
  • 本来の 20倍量 が投与された症例
  • ラベルと中身が一致しない、ほぼ偽造品レベルの製品
  • SNSやオンライン診療での誇大広告

などが相次ぎ、2025年秋までに 520件超の有害事象報告・50件以上の警告書 が出されています。

供給が徐々に安定してきたこともあり、現在は FDAが調剤版GLP-1薬の販売・広告を厳しく制限 している状況です。

「安くて手に入りやすい“なんちゃって薬”ほど危ない」
という、非常に教訓的なケースになりました。

2-2. 2025年秋:TrumpRxによる薬価革命(DTC価格と公的保険)

2025年11月、アメリカ政府(トランプ政権)は、ノボノルディスク社とイーライリリー社と合意し、 GLP-1薬の新しい価格スキーム「TrumpRx」 を発表しました。

公式発表・主要報道( White House Fact SheetCNNCNBCReuters など)によると、主な整理は以下の通りです。

項目 従来市販価格 TrumpRx DTC価格 公的保険目標(24ヶ月後) 患者自己負担目標(copay)
ウゴービ(Wegovy) 1,350ドル/月 350ドル/月 245ドル/月 50ドル/月
ゼップバウンド(Zepbound) 1,086ドル/月 346ドル/月 245ドル/月 50ドル/月
経口GLP-1(Orforglipron) 149〜150ドル/月
  • DTC価格:保険なしで TrumpRx 専用サイトから購入する際の現金価格
  • 公的保険目標:Medicare/Medicaid における薬価の目標値(段階的に引き下げ)
  • 自己負担目標:肥満症+合併症のある患者に対し、月 50ドル程度の負担を目指す枠組み

※いずれも「目標値」であり、州や保険プランによる差、今後の制度変更により変動する可能性があります。

さらに、保険に入っていない人でも TrumpRx の専用サイト経由で割引価格で購入できる仕組み が導入される予定で、

「富裕層だけの薬」 → 「中間層・高齢者にも届きやすい薬」

へと、少しずつ姿を変えようとしている段階です。

一方で、

  • 医療費全体の増加や財源
  • 民間保険・雇用者保険への波及
  • 長期的な制度の持続可能性

など未解決の課題も多く、「誰でも気軽に使えるほど安くなった」とまでは、まだ言えません。


3. 日本:ウゴービとゼップバウンドが保険適用に

3-1. ウゴービ(Wegovy)

  • 有効成分:セマグルチド(GLP-1受容体作動薬)
  • 用途:肥満症治療(週1回の皮下注射)
  • 日本でも、一定条件を満たす肥満症で 2023年から保険適用

3-2. ゼップバウンド(Zepbound)

  • 有効成分:チルゼパチド(GIP/GLP-1二重作動薬)
  • 用途:肥満症治療(週1回の皮下注射)
  • マンジャロ(Mounjaro)と同じ成分を、肥満症向けに適応拡大した薬
  • 日本でもウゴービと同様に、肥満症で 2025年から保険適用

ゼップバウンド/マンジャロはいずれも、消化器症状(吐き気・食欲低下・下痢・便秘)に加えて便秘が目立つケースが比較的多いなど、副作用プロファイルに若干の特徴があります。

3-3. 保険適用のポイント(共通イメージ)

ざっくり言うと、以下のような条件を満たした場合に、保険診療として使うことが検討されます。

  • 医師が「肥満症」と診断していること
  • 高血圧・脂質異常症・2型糖尿病・脂肪肝・睡眠時無呼吸など、肥満に関連した健康障害(合併症)があること
  • 食事療法・運動療法を一定期間行っても効果が不十分なこと
  • BMI 27以上+肥満に関連する健康障害を複数有する場合、またはBMI 35以上

つまり、

「ちょっと太ってきたから、楽に痩せたい」

というレベルでは使えず、医学的に“肥満症”と判断されるケースに限るというのが、日本のスタンスです。


4. 日本特有の事情――肥満率が低い国だからこその「サルコペニアリスク」

日本は、

  • BMI30以上の肥満率:約4〜5%(欧米よりかなり低い)
  • しかし「内臓脂肪型肥満」は比較的多い
  • そして何より、世界有数の高齢化社会

GLP-1薬で体重が減るのは良いことなのですが、研究によっては、

  • 減った体重の25〜40%が筋肉由来である
  • 中止後1年で、せっかく減った体重の約2/3がリバウンドした

といったデータも出ています(STEP試験など)。

高齢の方や、もともと筋肉量が少ない方が「薬だけでどんどん痩せる」という状態になると、

  • サルコペニア(筋肉量低下による虚弱)
  • フレイル(虚弱全般)
  • 転倒・骨折リスクの増大

につながるおそれがあります。

そのため、GLP-1薬を使う場合でも、

  • 十分なタンパク質摂取(体重 × 1.0〜1.5 g/日を目安に)
  • 週2〜3回の筋力トレーニング(スクワット・踵上げなどの自重トレでもOK)
  • できる範囲でのウォーキングなど有酸素運動

セットで考えることが非常に重要です。
特に高齢者や運動習慣の乏しい方は、医師や理学療法士に筋トレメニューを相談してから開始することをおすすめします。


5. 医師としてお伝えしたい「5つの真実」

1)これは「痩せ薬」ではなく、生活習慣病・肥満症の治療薬
主目的は、糖尿病・心筋梗塞・脳卒中・脂肪肝などのリスクを減らすことです。

2)やめれば、かなり戻る
中止後1年で、せっかく減った体重の約2/3が戻ったというデータがあります。
「一時的に打てば、一生スリム」は現実的ではありません。

3)脂肪だけでなく、筋肉も減る
体重減少の25〜40%が筋肉という報告もあり、
高齢者では特にサルコペニア・転倒リスクに注意が必要です。

4)主な副作用は“胃腸”と“胆膵”のトラブル
よくあるのは、吐き気・食欲低下・下痢・便秘・腹痛などの消化器症状です。
ウゴービでもゼップバウンド(=マンジャロ系)でも、この傾向は共通しますが、ゼップバウンドでは便秘が強めに出る方もいます。
まれに、膵炎・胆嚢トラブル(急な強い上腹部痛や持続する吐き気など)といった重い副作用も報告されており、症状が強いときは自己判断で続けず、必ず受診が必要です。

5)未承認薬・個人輸入・“もどき薬”は避ける
アメリカの調剤版GLP-1薬では、520件以上の有害事象・多数の警告が出ています。
日本でも、安易な海外通販や正体不明の “GLP-1ダイエット” は避けるべきです。


6. アメリカと日本の「GLP-1事情」をざっくり比較

項目 アメリカ 日本
主な薬 ウゴービ、ゼップバウンド、オゼンピック、マンジャロ など ウゴービ、ゼップバウンド(いずれも肥満症)
価格の方向性 TrumpRxで 350→245ドル/月、自己負担 50ドル目標 保険点数に基づき自己負担1〜3割
公的保険 Medicare/Medicaidが「肥満+合併症」でカバー拡大中 厳格な「肥満症」基準を満たした場合のみ
肥満率 BMI30以上 30〜40%前後 BMI30以上 約4〜5%(内臓脂肪型肥満は多い)
主な課題 医療費増大・供給不足・調剤版安全性・制度の持続性 高齢化・サルコペニア・医療費抑制
GLP-1薬の位置づけ 「国民的肥満治療薬」へ拡大しつつある 重症肥満症のための “高度治療薬”

7. よくある質問(Q&Aミニ版)

Q1. 「少し太ってきた」レベルでも、ウゴービ/ゼップバウンドは使えますか?
→ いいえ。日本では、BMI・合併症・生活習慣改善の経過など、厳しい条件を満たした「肥満症」の方に限られます。
美容目的・短期ダイエット目的での使用は、保険・自由診療ともに慎重であるべきと考えます。

Q2. 一度痩せたら、薬をやめても大丈夫ですか?
→ 多くの方でリバウンドが問題になります。GLP-1薬はあくまで「体重を減らすための補助輪」なので、

  • 食事内容(高タンパク・非加工食品中心)
  • 運動習慣(筋トレ+ウォーキング)
  • 睡眠・ストレス管理

といった生活習慣の土台を一緒に整えないと、やめた途端に戻ってしまうリスクが高くなります。

Q3. ウゴービとゼップバウンド、どちらが良いのでしょうか?
→ メカニズムや副作用プロファイルに違いはありますが、「どちらが絶対に優れている」という結論は出ていません。
持っている病気(糖尿病・心疾患・肝臓病など)、体質(胃腸の弱さ、低血糖リスクなど)、ライフスタイル(通院頻度、自己注射への抵抗感など)を踏まえて、主治医と一緒に選ぶのがいちばん安全です。

Q4. 経口タイプのGLP-1薬(Orforglipron)は、日本でも使えるようになりますか?
→ Orforglipron は、海外で開発中の「飲み薬タイプのGLP-1薬」で、肥満症・糖尿病を対象とした臨床試験が進んでいます。
製薬企業は「肥満症で2025年末ごろ、糖尿病で2026年前後の申請」を目指すと発表していますが、日本で実際に使えるようになるためには、承認審査・薬価収載・保険適用のプロセスが必要です。
「いつ日本で使えるか」「保険適用になるか」は、今後の審査と政策次第、という段階です。


8. さいごに――GLP-1薬は「ゴール」ではなく「補助輪」

アメリカでは TrumpRx によって、GLP-1薬が

「富裕層だけの薬」から「多くの人が手を伸ばせる薬」

へと変わりつつあります。

日本でも、ウゴービとゼップバウンドが肥満症で保険適用となり、選択肢は確実に増えました。

しかし、日本の現状(高齢化・サルコペニアリスク・医療費抑制)を考えると、

  • 高タンパク・非加工食品中心の食事
  • 続けられる運動(筋トレ+ウォーキング)
  • 睡眠・ストレス管理

といった生活習慣の土台があってこそ、GLP-1薬を安全に、そして本当に意味のある形で活かすことができます。

また、アメリカのTrumpRxや日本の保険適用拡大は、医療費や制度全体にも大きな影響を与える長期テーマです。今後も、国のガイドラインや公的発表のアップデートには注意していく必要があります。

医療機関では、「薬を使うか・使わないか」だけでなく、
あなたの病状・ライフスタイルに合った安全な方法を、一緒に考えていくことが大切です。

「GLP-1薬についてもう少し知りたい」「自分は対象になるのか気になる」という方は、かかりつけ医でぜひ気軽に相談してみてください。

※本記事は2025年11月時点の情報に基づいています。今後、薬価・保険適用・ガイドラインは変更される可能性があります。

主な出典(2025年11月時点・抜粋)

 

コントラスト調整

1色型色覚
(全色盲)

1型2色覚
(赤色盲)

2型3色覚
(緑色盲)

3型2色覚
(青色盲)

デフォルト

コントラストバー

  • Rr

  • Gg

  • Bb

テキスト表示調整

フォントサイズ

行間

文字間隔

分かち書き設定

音声サポート

Powered by MediPeak