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新しい肥満治療薬候補「Retatrutide(レタトルチド)」とは? —— 3つのホルモンに同時に働く“トリプルアゴニスト”という新発想
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2025年時点で分かっていること 新しい肥満治療薬候補「Retatrutide(レタトルチド)」とは? —— 3つのホルモンに同時に働く“トリプルアゴニスト”という新発想

肥満、2型糖尿病(T2DM)、脂肪肝(MASLD:metabolic dysfunction-associated steatotic liver disease/代謝異常を伴う脂肪肝疾患)は、日本でも世界でも年々増えており、
「食事と運動だけでは追いつかない」ケースも少なくありません。

ここ数年、GLP-1受容体作動薬や、GLP-1+GIPの“ダブルアゴニスト”が登場し、体重や血糖、心血管リスクの改善に大きな成果を上げてきました。

そのさらに先を行く候補として、世界でいま最も注目されている新薬候補のひとつRetatrutide(レタトルチド、LY3437943)です。

  • まだどこの国でも承認されていない「治験段階」の薬ですが
  • NEJM・Lancet・Nature Medicine など一流誌に次々とデータが発表され
  • 世界トップレベルの減量・代謝改善効果が「論文上」報告されている新薬候補です[1][2][3][4]

一方で、長期の安全性や心臓・脳への影響はまだ評価途中という、期待と慎重さの両方が必要な段階にあります。

この記事では、患者さんにも分かる言葉で、「いま分かっていることだけ」「誇大表現なし」でRetatrutideについて整理してみます。

① Retatrutideとは?
—— GLP-1・GIP・グルカゴンの3つを同時に刺激する“トリプルアゴニスト”

Retatrutide は、週1回注射するタイプの薬で、

  • GLP-1
  • GIP
  • グルカゴン

という 3つのホルモン受容体を同時に刺激する ように設計されています[1][3]。

● GLP-1(食欲と血糖を調整するホルモン)

  • 食欲を抑える
  • 胃の動きをゆっくりにして、少ない量でも満腹感が続きやすくする
  • 食後の血糖が上がりすぎないよう助ける

現在すでに使われている GLP-1 注射薬(セマグルチドなど)と同じ系統の作用です[1]。

● GIP(食後インスリン分泌を助けるホルモン)

  • 食事に応じたインスリンの出方をサポート
  • GLP-1と組み合わせることで、より自然な形で血糖を整えやすくする

GLP-1+GIP の「ダブルアゴニスト」(チルゼパチドなど)と同じく、血糖コントロールに有利に働きます[3][6]。

● グルカゴン(脂肪燃焼・代謝アップに関わるホルモン)

ここが Retatrutide の最大の特徴であり、“両刃の剣”にもなり得る部分です。

メリット

  • エネルギー消費を高める
  • 脂肪酸の燃焼(脂肪の分解・利用)を促す

→ 体重減少・脂肪肝改善をさらに後押しする可能性[1][3]

注意点

  • 肝臓で糖をつくる(糖新生)作用を促し、血糖を上げる方向にも働く

→ 糖尿病のある方ではバランスが重要

Retatrutide は、
GLP-1+GIP が血糖を下げる方向に働きながら、グルカゴンの「代謝アップ・脂肪燃焼」の良い面を活かすという設計思想の薬と理解できます[1][3][6]。

② 効果はどのくらい?(臨床試験で分かっていること)

■ 1)体重減少:最大 −24.2%(12mg群・48週時点)

NEJM 2023年の第2相試験(肥満成人、T2DMなし)では[1][2]:

  • 12mg群:48週時点で −24.2%
  • 8mg群:−22.8%
  • 4mg群:−17.1%
  • 1mg群:−8.7%
  • プラセボ群:−2.1%

体重100kgの方の場合 → 約75.8kg(約24.2kg減少) に相当します。

重要

いずれの試験でも、薬だけでなく「食事・運動などの生活習慣介入」が並行して行われています。
「注射だけで24%痩せる」という意味ではありません。

このポイントは誤解が起こりやすいため、特に強調しておきたい部分です。

■ 2)2型糖尿病での効果:HbA1c 最大 −2.16%

Lancet 2023年の第2相試験(2型糖尿病患者)では[3][10]:

  • HbA1c:最大 −2.16%(36週、最高用量群)
  • 体重:最大約 −17%

血糖と体重の両方に、非常に大きな改善が見られました。

■ 3)脂肪肝(MASLD/MASH)への効果:肝脂肪量 −82.4〜86.6%

Nature Medicine 2024年の第2a相試験(MASLD 患者対象)では[4][7][8]:

  • 8mg群:肝脂肪量 −82.4%
  • 12mg群:最大 −86.6%

48週時点で

  • 8mg群の89%
  • 12mg群の93%

が「正常肝脂肪量(5%未満)」に到達

脂肪肝治療の臨床研究としても、歴史的に見てかなり大きな改善幅といえます。

※MASH(metabolic dysfunction-associated steatohepatitis)は、MASLD のうち炎症や線維化を伴う“脂肪性肝炎”の病態を指します。

■ 4)その他の代謝指標

NEJM・Lancet の試験では、以下の改善も報告されています[1][3][6]。

  • 収縮期・拡張期血圧の低下
  • 中性脂肪(トリグリセリド)の減少
  • non-HDL コレステロールの低下
  • インスリン抵抗性の改善

Retatrutide は、「体重を減らす薬」というだけでなく、心血管リスクに関わる複数の因子をまとめて改善し得る薬候補と考えられています[5][6]。

③ 副作用・安全性(現時点で分かっていること)

● 一番多いのは「胃腸症状」

NEJM・Lancet の両試験で共通しているのは、吐き気・嘔吐・下痢・便秘 といった消化器症状がもっとも多い点です[1][3][4]。

  • 用量が高いほど副作用が増える傾向
  • 多くは軽度〜中等度で、時間とともに軽減することが多い

と言われていますが、高用量群では中止に至るケースも一定数報告されています[1][4][6]。

● 心拍数の上昇

Retatrutide では、平均して数拍/分の心拍数上昇が報告されています[1][3]。これは他のGLP-1薬や GIP/GLP-1薬でも見られる現象で、現時点では「許容範囲内」とされていますが、心疾患のある方では慎重な評価が必要です。

● その他(長期安全性はまだ評価途中)

  • 膵炎
  • 胆のう関連疾患

などの懸念も議論されていますが、長期的な安全性については、まだ確定的な結論は出ていません[1][4]。

この部分は、今後の第3相試験および市販後調査で明らかになっていくと考えられます[6]。

④ 心筋梗塞や脳卒中を減らせる薬なのか?
—— 現時点の答えは「まだ分からない」

GLP-1 系薬(セマグルチドなど)やチルゼパチドは、心筋梗塞や脳卒中などの「主要心血管イベント(MACE:major adverse cardiovascular events)」を減らすことが大規模試験(CVOT:cardiovascular outcome trial)で示されています[6][10]。

一方、Retatrutide については、

  • 長期試験の途中段階
  • 心血管アウトカム試験(CVOT)の最終結果は未公表

という状況であり、「心臓や脳の病気を減らす薬」とは、まだ言えない段階です[3][6]。

現在進行中の TRIUMPH プログラム(第3相試験)では[6]:

  • TRIUMPH-1:肥満症
  • TRIUMPH-2:2型糖尿病
  • TRIUMPH-3:MASLD/MASH
  • TRIUMPH-4:心血管アウトカム

が計画・進行しており、今後数年で長期安全性・心血管保護効果の有無が明らかになっていく見込みです。

⑤ インターネット上の「偽物」や未承認品にご注意を

欧米ではすでに、

  • SNS(X/旧Twitter、Instagram など)での「自己注射報告」投稿[13]
  • ADA(米国糖尿病学会)関連ニュースや、学会レポートでの注意喚起[11][12][14]

などを通じて、

「Retatrutide を名のる未承認注射ペン」
「研究用」「研究化学品」と称した製剤

が出回っていることが報告されています[5][11][12]。

当然ながら、

  • 成分が本当に Retatrutide か不明
  • 濃度も保証されない
  • 不純物や細菌混入のリスク
  • 誤った量で重い副作用を起こす危険

があり、極めて危険です。

警告

未承認薬を個人輸入や通販で入手し、自分の判断で使うことは、重大な健康被害や命に関わる危険があります。絶対にやめてください。

⑥ 当院のスタンス
—— 「大きな期待」と「冷静な慎重さ」の両立

Retatrutide は、

  • 肥満
  • 2型糖尿病
  • 脂肪肝(MASLD/MASH)

に対して、従来を上回る強い効果を示す可能性がある薬です[1][3][4][6]。

一方で、

  • まだ承認前であり、一般診療では使えない
  • 長期安全性・心血管アウトカムについては評価途中
  • 偽造品や未承認製剤がネット上で出回り始めている

という、注意すべき点も多くあります[5][11][12][14]。

当院としては、

  • 現時点では、既に安全性と有効性が確立している治療(生活習慣調整、既存のGLP-1薬など)を中心に行いながら
  • Retatrutide を含めた新薬のデータを丁寧にフォローし、
  • 将来、安全性と有効性が十分に確認され、日本で正式に承認された段階で、患者さんに安心して提案できるよう準備しておく

というスタンスで診療を続けていきたいと考えています。

ここで述べる「将来使えるようになるかもしれない」という表現は、
あくまで現時点の“見込み”であり、実際の適応や条件が保証されているわけではありません。

まとめ

  • Retatrutide(レタトルチド)は、GLP-1+GIP+グルカゴンの “トリプルアゴニスト”
  • NEJM の試験で 最大 −24.2%の体重減少(12mg群・48週) が報告[1][2]
  • Lancet では HbA1c 最大 −2.16%、体重 −17% の改善[3][10]
  • Nature Medicine では 肝脂肪量 −82.4〜86.6%、9割前後が正常脂肪肝レベルへ[4][7][8]
  • 副作用の中心は胃腸症状と心拍数上昇で、長期安全性はまだ評価途中[1][3][4]
  • 心筋梗塞・脳卒中予防効果は、TRIUMPH 試験の結果待ちであり、現時点では「不明」[6]
  • 未承認品・偽造品の個人輸入は非常に危険で、決しておすすめできない[5][11][12][14]

Q&A:患者さんからよくある質問(10問)

Q1. 日本ではもう使えますか?

いいえ。
日本を含め、世界のどの国でもまだ承認されていない治験中の薬です[1][3]。通常診療で処方することはできません。

Q2. セマグルチド(GLP-1注射)よりも「強い薬」なんですか?

肥満の方を対象にした試験では、
Retatrutide 12mg群で −24.2%、セマグルチドで −14〜17%程度 と報告されています[1][2][5][6]。
ただし、直接の“頭ごなし比較試験”ではなく、条件も異なるため、「必ず上」とは言い切れません

Q3. どんな副作用がありますか?

もっとも多いのは 吐き気・嘔吐・下痢・便秘 などの胃腸症状です[1][3][4]。用量が高いほど起こりやすい傾向があります。

また、心拍数が数拍/分上昇することが報告されており、心臓病のある方では注意が必要です[1][3]。

Q4. 心臓病や脳卒中を減らす効果はありますか?

これは まだ分かっていません。現在、TRIUMPH-4 という心血管アウトカム試験(CVOT)が進行中で[6]、その結果が出て初めて、心筋梗塞・脳卒中への予防効果を評価できます。
現時点で「心臓病を減らす薬」と言える段階ではありません。

Q5. ネットやSNSで「Retatrutide 注射ペン」が売られていますが、買ってもいいですか?

絶対にやめてください。

成分や濃度が本物か不明、不純物や細菌の混入リスク、別の薬物が混ざっている可能性などがあり、重い健康被害、最悪の場合は命に関わる危険があります[5][11][12][14]。
未承認薬の個人輸入・自己注射は非常に危険です。

Q6. 将来、いつ頃承認されそうですか?

第3相試験(TRIUMPH プログラム)が順調に進み、有効性と安全性が確認されれば、
今後数年のうちに海外で承認申請が行われる可能性はあります[6][11]。

ただし、試験結果しだいで計画変更もあり得るため、具体的な時期はまだ誰にも分かりません。
「こうなりそうだ」という見込みに過ぎず、保証ではありません。

Q7. 糖尿病がなくても使える薬になりそうですか?

はい。

肥満のみの方を対象にした試験でも、大きな体重減少と脂肪肝改善が示されています[1][2][4]。

もし将来承認されれば、

  • 肥満症
  • 肥満+糖尿病
  • 肥満+脂肪肝

など、複数のパターンで使われる可能性がありますが、
あくまで現時点での“見込み”であり、実際の適応(使える病気・条件)は承認時に正式に決まります。

Q8. やめたらリバウンドしますか?

まだ長期のフォローアップデータが十分ではありませんが、GLP-1 系薬では 中止すると体重が戻りやすい ことが知られています[5][6]。

Retatrutide でも同様の傾向が出る可能性があり、薬だけに頼らず生活習慣を整えていくことが、長期的には重要です。

Q9. 減量手術(スリーブ状胃切除術など)と比べてどうですか?

代表的な 腹腔鏡下スリーブ状胃切除術 では、平均 30〜35%の体重減少 が得られるとされています[6][10]。

Retatrutide の −24.2%(平均)は、減量手術に近いが、やや劣る水準と考えられます[1][2][3]。

一方で、手術には全身麻酔、出血・感染、吻合部の合併症など、手術特有のリスクがあります。薬と手術はそれぞれ長所・短所が異なり、「どちらが良い」と一概には言えません。

Q10. 自分はこの薬の対象になりそうですか?

現時点では治験中の薬であり、日本で患者さんが自由に選べる段階ではありません。

もし将来、Retatrutide が承認された場合には:

  • BMI(体格指数)
  • 糖尿病の有無
  • 脂肪肝の程度
  • 心臓・腎臓など他の病気の状況

などを総合的に見て、主治医と相談しながら「適切かどうか」を判断していくことになります。

ここで述べる将来像は、
現時点のデータから推測される“可能性”であり、適応が約束されているわけではないことをご理解ください。

主要引用文献・データ出典(1〜14・プレーンURL)

  1. Jastreboff AM, Kaplan LM, Frías JP, et al. Triple–Hormone-Receptor Agonist Retatrutide for Obesity — A Phase 2 Trial. N Engl J Med. 2023;389(6):514-526. PMID: 37366315.
    https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/37366315/
  2. NEJM / Ovid summary:Triple-hormone-receptor agonist retatrutide for obesity (Phase 2, 48-week data).
    https://www.ovid.com/journals/nejm/pdf/10.1056/nejmoa2301972~triple-hormone-receptor-agonist-retatrutide-for-obesity-a
  3. Rosenstock J, Frias J, Jastreboff AM, et al. Retatrutide, a GIP, GLP-1 and glucagon receptor agonist, for people with type 2 diabetes. Lancet. 2023;402(10401):529-544.
    https://www.thelancet.com/journals/lancet/article/PIIS0140-6736(23)01053-X/abstract
  4. Sanyal AJ, Kaplan LM, Frias JP, et al. Triple hormone receptor agonist retatrutide for metabolic dysfunction-associated steatotic liver disease: a randomized phase 2a trial. Nat Med. 2024;30(7):2037-2048.
    https://www.nature.com/articles/s41591-024-03018-2
  5. 解説記事(Retatrutideと脂肪肝改善・肥満治療に関する臨床家向けまとめ)。
    https://www.joinvoy.com/blog/retatrutide-fatty-liver
  6. Sinha B, Ghosal S. Efficacy and Safety of GLP-1 Receptor Agonists, Dual Agonists, and Retatrutide for Weight Loss in Adults With Overweight or Obesity: Bayesian NMA. Obesity (Silver Spring). 2025.
    https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S2213858725000920
  7. Retatrutide関連 MASLD 論文のオープンアクセス解説(PMC)。
    https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC11271400/
  8. PubMed 38858523:Retatrutide の MASLD データに関する詳細解析。
    https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/38858523/
  9. Tashko G. “Retatrutide: a triple agonist shaping the future of metabolic care.”
    https://gertitashkomd.com/retatrutide-a-triple-agonist-shaping-the-future-of-metabolic-care/
  10. 2型糖尿病と心血管リスク管理に関する総説(GLP-1/SGLT2 のCVOT含む)。
    https://www.sciencedirect.com/science/article/abs/pii/S014067362301053X
  11. ADA Meeting News:Phase 2 trial results demonstrate benefits of retatrutide in obesity, T2D, NASH.
    https://www.adameetingnews.org/phase-2-trial-results-demonstrate-benefits-of-retatrutide-in-obesity-type-2-diabetes-nash/
  12. ADA / diabetes.org newsroom:retatrutide による体重減少データの学会プレスリリース。
    https://diabetes.org/newsroom/american-diabetes-association-highlights-novel-agent-retatrutide-results-substantial-weight-reduction-people-with-obesity-type-2-diabetes-during-late-breaking-symposium
  13. Nature Medicine公式 X(旧Twitter)アカウントによる retatrutide MASLD 論文紹介ポスト。
    https://x.com/NatureMedicine/status/1805949488319639652
  14. Springer Medicine:retatrutide による脂肪量減少・T2DM に関する臨床ニュース。
    https://www.springermedicine.com/type-2-diabetes/diabetes-therapy/retatrutide-significantly-reduces-fat-mass-t2d/51204996

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