2025/12/05
【戸塚】息が苦しくて倒れそうに…20代ママの心不全、その原因はバセドウ病でした
〜戸塚クリニック院長ブログ〜
横浜市戸塚区・戸塚駅西口から徒歩10分、駐車場10台。
内科・循環器内科・糖尿病内分泌内科の「戸塚クリニック」院長、村松 賢一です。
(日本内科学会総合内科専門医/日本循環器学会専門医/米国オレゴン州医師免許)
心臓と甲状腺を中心に、内科全般を幅広く診療しています。
■ このページにたどり着いたあなたへ
最近、こんな症状はありませんか?
- 動悸が続く・脈が速い気がする
- 息切れが強くなってきた
- 急に痩せた、暑がりになった、手が震える
- 育児や仕事の疲れだと思っていたけれど、少し不安になってきた
そうした症状から
「戸塚 動悸」「戸塚 甲状腺」「息切れ 20代」などで検索して、
このページを開かれた方もいるかもしれません。
特に、シングルマザー・ワンオペ育児・仕事の両立で毎日が精一杯の方。
「病院に行く時間がない」「ただの疲れだと信じたい」――そう思うのは、とても自然なことです。
まず最初に、受診に関するご案内です。
予約優先制ですが、予約なしでも受診できます(混雑時はお待ちいただく場合があります)。
受診をご検討される場合は、ご都合のよいタイミングでお申し込みいただけます。
(予約サイト:https://wakumy.lyd.inc/clinic/hg08287
公式サイト:https://www.totsukaclinic.com)
※当ブログは一般的な医学情報のご紹介であり、個別診断・治療は来院時に行います。
■ 忘れられない、あの日の患者さん
〜20代シングルマザーの急性心不全〜
ある冬の日のことです。
20代後半の痩せた女性が、受付のカウンターに手をつきながら、今にも倒れそうな様子で来院されました。
「息が……苦しくて……」
「動悸が止まらなくて……」
冬にもかかわらず額には大粒の汗。
呼吸は浅く速く、顔色は真っ青でした。
すぐに診察室へご案内し、心電図をとりました。
結果は心房細動(AF)。
心拍数 150〜180/分で、不規則に乱れた脈でした。
胸部レントゲンでは、
- 軽度の肺うっ血
- 心陰影の拡大
が認められ、いわゆる「急性心不全の入り口(肺水腫の手前)」と判断しました。
触診すると、首の前側には軽い甲状腺腫大。
手は細かく震え、痩せた体つきで、脈はとても速い。
「これは甲状腺の異常が関係しているかもしれない」と強く感じました。
■ 本来は“即入院”のケース、しかし…
急性心不全+頻脈性心房細動+甲状腺中毒症の疑い。
医学的には、本来はすぐに入院が望ましい状態です。
しかし、事情をお聞きすると、この方は小さなお子さんを育てているシングルマザーでした。
「子どもを家にひとり残して、今すぐ入院はできません……」
「どうしても今日だけは、家に帰らないといけないんです……」
そう話しながら、涙をこらえている姿が、とても印象的でした。
一方で、医学的には「今この瞬間も心臓に負担がかかっている」状態。
そこで、
- 血圧は保たれている
- SpO₂(酸素飽和度)は90%以上
- 呼吸苦は“重症一歩手前”だが、即座に生命が危険という段階ではない
という“ギリギリ外来で初期安定化を図ることが可能なライン”であることを確認し、
安全を最優先しながら、外来で治療を開始する方針としました。
■ 外来で行った初期治療
具体的には、次のような治療を行いました。
- ジルチアゼム静注(短時間作用型カルシウム拮抗薬):心拍数を速やかに下げるため
- フロセミド静注:肺のうっ血を改善し、呼吸を楽にするため
- β遮断薬の内服開始:過剰な交感神経刺激を抑え、心拍数をコントロールするため
- 抗甲状腺薬の内服開始:根本原因である甲状腺ホルモンの過剰分泌を抑えるため
これらの治療を行いながら、数時間にわたって血圧・脈拍・酸素飽和度などを丁寧にモニタリングしました。
しばらくして、心拍数は150〜180台 → 90台前半へと落ち着き、
患者さんご自身も「息がだいぶ楽になってきました」と話されるまでに改善しました。
■ 採血結果:TSH↓・FT4↑・TRAb陽性 → バセドウ病と確定
その日の採血では、まず
- TSH:著明低値(0.01未満)
- FT4:高値
が判明し、強い甲状腺中毒症であることが分かりました。
さらに翌日、TRAb(甲状腺刺激ホルモン受容体抗体)陽性という結果が返ってきました。
TRAbは、甲状腺を「もっと動け!」と刺激してしまう抗体で、
バセドウ病(甲状腺機能亢進症)の診断において、最も重要なマーカーの1つです。
一般的に、TRAbが陽性の場合、バセドウ病である可能性は90%以上とされています。
TRAbが陰性でもバセドウ病の可能性がゼロになるわけではありませんが、
TRAb陽性であれば、ほぼ間違いなくバセドウ病と考えられる、非常に信頼度の高い検査です。
身体所見・心電図・レントゲン・採血結果を総合して、
「バセドウ病による頻脈性心房細動と急性心不全」 と診断しました。
その後も慎重に外来で経過を追いながら治療を続けた結果、
数週間後には心房細動は消失し、息切れも改善。
お子さんとの生活に無事戻ることができました。
■ 甲状腺ホルモンは「心臓のスピード調整つまみ」
ここからは、一般的な内容として、甲状腺ホルモンと心臓の関係について少し整理してみます。
● 甲状腺ホルモンが多すぎるとき(バセドウ病など)
イメージとしては「アクセルを踏みっぱなし」の状態です。
- 脈が速くなる(頻脈)
- 心臓の収縮が強くなる
- 血管が広がり、全身の血流が増える(高拍出状態)
- 代謝が全体的に上がり、体重減少・多汗・手の震えなどが出る
心拍出量(心臓が1分間に送り出す血液の量)は、
通常の1.5〜2.5倍に増加し、重症例の報告では最大で約300%近くに達することもあります。
このような「高出力モード」が続くと、
- 心房細動(今回の患者さんのように)
- 心不全
- 胸の圧迫感・息切れ
といった症状につながりやすくなります。
特に、TSHが0.1未満のように大きく抑制されている場合、
心房細動のリスクは 1.6〜2倍程度に上がることが報告されています。
● 甲状腺ホルモンが少なすぎるとき(甲状腺機能低下症)
こちらは「ブレーキを踏みすぎている」状態です。
- 脈が遅くなる(徐脈)
- 疲れやすい・だるい
- 体重が増えやすい
- コレステロールが上がりやすい
- むくみが出る
- 動脈硬化が進みやすくなる
- 心不全のリスクが高くなる
甲状腺機能低下症については、JAMAレビューおよび国内の知見をまとめた
当院の別記事でも詳しく解説しています。
▶ 関連記事:
甲状腺機能低下症 ― JAMAレビューと国内知見から
■ よくあるご質問(Q&A)
Q1. 20代でも心房細動になりますか?
なります。
特に今回のように甲状腺ホルモンが高い状態では、若い方でも頻脈性心房細動が起きることがあります。
Q2. TRAbって何の検査ですか?
TRAb(TSH受容体抗体)は、甲状腺を「もっと働け」と刺激してしまう抗体の検査です。
バセドウ病の診断において、最も重要な検査のひとつです。
一般的に、TRAbが陽性であればバセドウ病の可能性は90%以上とされています。
陰性でもバセドウ病の可能性が完全になくなるわけではありませんが、
陽性であれば、ほぼ間違いなくバセドウ病と考えられる非常に有用な検査です。
Q3. 育児中でも治療はできますか?
可能です。
授乳中でも使用できる薬剤もあり、状況に応じて治療方法を調整します。
「子どもを預けられない」という事情も含めて、一緒に考えていきます。
Q4. 運動はしても大丈夫?
甲状腺ホルモンがまだ高い状態で、動悸・息切れが強いときは、無理な運動は控えた方が安全です。
数値や症状が落ち着いてきた段階で、「どの程度の運動なら大丈夫か」を個別に相談して決めていきます。
Q5. 健康診断でTSHを測っていませんでした。大丈夫でしょうか?
一般的な健康診断では、TSHが検査項目に含まれていないことも多いです。
「なんとなく体調が悪い」「動悸や息切れが気になる」といった症状がある場合は、
一度、甲状腺ホルモン(TSH・FT4など)を含めた採血を受けておくことをおすすめします。
Q6. 甲状腺の病気を治せば、心臓も元に戻りますか?
甲状腺ホルモンの異常が主な原因であった場合、
適切な治療によって多くの方が日常生活に近い状態まで回復します。
ただし、心房細動が長く続いていたり、もともと心臓に持病がある場合は、
回復に時間がかかることもあります。そのあたりも含めて、一緒に経過を見ていくことが大切です。
■ 最後に:無理を重ねる前に、ご相談ください
動悸・息切れ・体重の急な変化・手の震え――。
忙しい毎日を送っていると、「きっと疲れのせいだ」と自分に言い聞かせてしまいがちです。
しかし、その裏側で、心臓や甲状腺からのSOSが出ていることもあります。
横浜市戸塚区・戸塚駅周辺で、
「動悸や息切れが続く」「甲状腺が心配」「若いのに心臓に不安がある」――そんな方は、
無理を重ねる前に、タイミングの合うときで構いませんので、一度ご相談いただければと思います。
(予約サイト:https://wakumy.lyd.inc/clinic/hg08287
公式サイト:https://www.totsukaclinic.com)
戸塚クリニック
院長 村松 賢一
