2025/12/25
【横浜・戸塚駅西口 徒歩10分/駐車場あり】
内科・循環器内科・糖尿病内分泌内科|戸塚クリニック
(院長:村松 賢一)
当院は「内科のかかりつけ」として、
高血圧・糖尿病などの生活習慣病や体調不良、
甲状腺を含む内分泌のご相談まで幅広く対応しています。
予約優先制ですが、予約なしでも受診可能です。
(予約をおすすめする理由は待ち時間を短くするためです。
混雑時はお待ちいただく場合がありますが、症状に合わせて柔軟に対応します)
症状が気になる方は、ご都合のよいタイミングでお越しください。
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https://wakumy.lyd.inc/clinic/hg08287
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https://www.totsukaclinic.com
こんにちは。
横浜市戸塚区の戸塚クリニック院長、村松賢一です。
今日は、障害のある方やご家族、そして医療に関わるすべての人に知っておいてほしい視点についてお話しします。
少し長い文章ですが、要点は最初にまとめています。途中で疲れたら、無理に最後まで読まなくても大丈夫です。
まず最初に|ACHD(成人先天性心疾患)って何?
ACHD(Adult Congenital Heart Disease)とは
生まれつき心臓の病気を持ち、治療を受けながら大人になった方々のこと。
(小児期に手術を受けていても、多くの場合、生涯にわたるフォローが必要です)
医療の進歩によって多くの方が大人になれるようになりましたが、その一方で、学校や仕事との両立、通院の継続、周囲の理解の不足など、「病気そのもの以外の壁」に直面しやすいことも分かってきました。
この背景にあるのが、今日のテーマ 「エイブリズム(Ableism)」 です。
まずは30秒で|今日の話の要点
エイブリズム(Ableism)とは、
「障害のない心身の状態を“標準”とし、そこから外れる人を、無意識のうちに不利な立場に置いてしまう社会的な偏り」 のことです。
これは、誰かの悪意や差別心だけの問題ではありません。
医療の仕組み、学校や職場、そして診察室での何気ない言葉の中に、静かに入り込んでいます。
正直に言うと──私自身も、最近まで気づいていませんでした
医師として「患者さんを差別してはいけない」。それは当然のことだと思ってきました。
けれど近年の医学・公衆衛生の論文を読む中で、
善意で行ってきた医療が、知らず知らずのうちに患者さんの尊厳や選択肢を狭めていたかもしれない
そんな視点に、はっとさせられました。
エイブリズムは今、「健康の社会的決定要因」の一つとして、医学的にも整理されつつあります。
エイブリズムは、どこで起きているのか
研究の世界では、エイブリズムは主に次の層で働くと考えられています。
- 内面的(intrapersonal)
「自分は迷惑をかけている」「普通ではない」と、本人が抱え込んでしまう思い - 対人的(interpersonal)
無意識の子ども扱い、過度な同情、能力の決めつけ - 制度的・構造的(institutional / structural)
医療・教育・交通・就労が「障害のない人」を前提に設計されていること
これは気持ちの問題ではありません。
実際の医療アクセスや健康格差に直結する問題です。
⚠ 少し重い話をします
(無理に読み進める必要はありません)
日本では過去に、「障害のある人の命や人生の価値」を否定する考えが、取り返しのつかない形で社会に現れた出来事がありました。
胸が苦しくなる方もいらっしゃると思います。
もし今つらければ、ここで一度、画面から目を離しても大丈夫です。
この話を持ち出す理由は、誰かを責めるためではありません。
エイブリズムは、極端な思想だけでなく、日常の延長線上にも存在する
その事実を、静かに共有したいからです。
親御さんへ|それは、あなたの弱さではありません
診察室や学校で、
「この子はここまでですね」
「仕方ないですよね」
そんな言葉に、胸を締めつけられた経験はありませんか。
それは、あなたが弱いからではありません。
構造の中にあるエイブリズムが、そう感じさせているのです。
ここからは医療者としての話です
― 成人先天性心疾患(ACHD)の現場から
成人先天性心疾患(ACHD)の診療では、
フォローが途切れる/成人移行がうまくいかない/社会的に不利な状況に置かれやすい
といった課題が、複数の国際的な研究や声明で繰り返し報告されています。
American Heart Association(米国心臓協会)は、
ACHD診療においても、エイブリズム(無意識の偏り)や健康の社会的決定要因が、ケアの断絶や健康格差に関与している
と明確に述べています。
なぜACHDで問題になりやすいのか
- 軽度の認知・実行機能の特性を前提にしない診療設計
- 教育・就労格差が、保険や通院継続に直結する構造
- 専門施設集中による地理的・時間的負担
- とくに、少数派のバックグラウンドや、低所得・言語の壁を抱える方ほど、こうした「見えないハードル」の影響を受けやすいこと
これは患者さんの努力不足ではありません。
「標準的な成人像」を前提に作られた医療構造の問題です。
では、どうすればよいのか
(エビデンスに基づく視点)
American Heart Association や関連研究では、次のような戦略が有効とされています。
- 構造化されたトランジション教育
(看護師などが中心となって病気の知識や自己管理を一緒に整理していくプログラム) - 健康の社会的決定要因の把握と支援
(交通・就労・保険などの生活基盤を整える) - オンライン診療や地域連携
(通院の物理的な障壁を減らす) - 心理・行動支援の統合
これらは「優しさ」の話ではありません。
アウトカムを改善するための、実務的な医療戦略です。
戸塚クリニックとしての姿勢
正直に申し上げます。
当院は、設備面で「完璧なバリアフリー環境」とは言えません。
だからこそ、姿勢と対話を大切にしています。
- まずご本人に話す
- 「できない」と決めつけない
- 何があれば可能か、一緒に考える
通院やお仕事・学校・ご家族の事情など、生活面(健康の社会的決定要因)でのご不安があれば、診察の中で一緒に整理し、必要に応じて地域資源や専門機関との連携も検討していきます。
完璧ではありません。
けれど、学び続けることが医療の責任だと考えています。
最後に|ここなら、話してもいいかもしれない
エイブリズムは、誰か一人の問題ではありません。
医療者も、親も、社会も、無意識の中で影響を受けています。
もし医療の中で
「説明してもらえなかった気がする」
「うまく言葉にできない違和感」
を感じたことがあれば、どうか一人で抱え込まないでください。
ここなら、話してもいいかもしれない。
そう思っていただける場所でありたいと、私は本気で思っています。
※本記事は、障害と医療をめぐる一般的な考え方を共有するものであり、特定の診療行為や結果をお約束するものではありません。
【参考文献・出典】
- AHA Scientific Statement:
Advances in Managing Transition to Adulthood for Adolescents With Congenital Heart Disease (2022)
※成人移行支援の重要性と実践的アプローチについて - AHA Scientific Statement:
Addressing Social Determinants of Health and Mitigating Health Disparities in Congenital Heart Disease (2022)
※健康の社会的決定要因(SDOH)と健康格差の是正について - Frontiers in Public Health:
The Study of Ableism in Population Health: A Critical Review (2024)
※公衆衛生におけるエイブリズムの概念整理について
村松 賢一
戸塚クリニック 院長
(総合内科専門医・循環器専門医)
2025年12月25日
