2026/01/15
【横浜・戸塚駅西口 徒歩10分/駐車場あり】
内科・循環器内科・糖尿病内分泌内科|戸塚クリニック
(院長:村松 賢一)
当院は「内科のかかりつけ」として、
高血圧・糖尿病などの生活習慣病や体調不良、
甲状腺を含む内分泌のご相談まで幅広く対応しています。
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院長ブログ:当院ブログでお馴染みの「GLP-1」
―― 2026年1月14日発表・Lancet総説から見えてきた“現在地” ――
当院のブログでは、これまでにも糖尿病・肥満症治療薬としてのGLP-1受容体作動薬について取り上げてきました。
当初は「血糖値を下げる薬」として登場したこの薬剤が、心臓、腎臓、肝臓といった全身の臓器保護へその可能性を広げていることが、ここ数年で少しずつ知られるようになってきました。
2026年1月14日、世界的な医学誌 The Lancet(オンライン版)に、これらの知見を包括的に整理した総説(Review)が掲載されました。
今回はその内容を踏まえ、医学的に「今どこまで分かっていて、どこからがまだ研究段階なのか」を、院長ブログとして冷静に整理してお伝えします。
この記事の要点(30秒で把握)
- GLP-1関連薬は、血糖や体重だけでなく全身の臓器(心・腎・肝など)への影響が研究されています。
- 大規模試験(FLOW試験)では、腎・心血管を含む複合アウトカムでリスク低下が報告されました。
- 一方で、副作用や適応、日本の保険制度による厳格なルールがあり、誰にでも使う薬ではありません。
「血糖の薬」を超えた位置づけへ
この総説が示している最も重要な点は、GLP-1関連薬が単に「血糖を下げる」「体重を減らす」という枠を超えて評価される段階に入っている、ということです。
大規模臨床試験やメタ解析の結果として、以下のような多臓器への作用の可能性が報告されています。
- 心血管への作用
心筋梗塞・脳卒中・心血管死などのリスク低減(MACE)が示唆されています。 - 心不全への作用
特に駆出率が保たれた心不全(HFpEF)において、症状改善や入院リスク低減が報告されています。 - 腎臓への作用
アルブミン尿の減少や、腎機能低下の抑制が示されています。 - その他の疾患
脂肪肝(MASLD/MASH)の改善、睡眠時無呼吸、変形性膝関節症などでの症状改善が報告されています。
これらは単なる期待ではなく、複数の臨床試験データを統合して示された医学的知見として整理されています。
具体例:腎臓に関するエビデンス(FLOW試験|GLP-1と慢性腎臓病)
臓器保護効果の一例として、腎臓に関する大規模試験であるFLOW試験の結果が、総説内で詳しく紹介されています。
2型糖尿病と慢性腎臓病(CKD)を有する患者さんを対象としたこの試験では、GLP-1受容体作動薬(セマグルチド 1mg 週1回)により、以下のような結果が示されました。
- 主要複合アウトカム
(eGFR 50%以上低下、eGFR <15、透析・腎移植、腎疾患または心血管疾患による死亡 など)
について、プラセボと比較して主要複合アウトカムの相対リスクが24%低下(HR 0.76、95%信頼区間 0.66–0.88)したと報告されています。
💡 院長のひとこと解説:「24%低下」ってどういうこと?
「24%低下」と聞くと、「腎臓の機能が24%回復して元気になる」とイメージされるかもしれませんが、少し違います。
正しくは「透析や命に関わる重大な事態になる確率を、約4分の3(0.76倍)に抑えられた」という意味です。
- × 誤解:腎臓が若返る(バックギアを入れる)
- ○ 正解:悪化のスピードに強力なブレーキをかける
つまり、坂道を転がり落ちないように「ブレーキをしっかり踏んで、現在の機能をできるだけ長く守る」効果が確認された、とご理解ください。
※このアウトカムは「腎機能そのもの」だけでなく「心血管死」を含む複合評価であり、総説では腎保護を考えるうえで重要な根拠の一つとして位置づけられています。
この結果は、「血糖管理や体重減少だけでは説明しきれない、腎臓保護に関わる効果が存在する可能性」を示唆するものとして注目されています。
「体重や血糖だけでは説明できない」効果
なぜ、このような効果が期待されるのでしょうか。
総説では、心血管や腎臓へのメリットの一部は、血糖値や体重の変化だけでは統計的に説明しきれない可能性が示唆されています。
背景メカニズムとして、現段階では次のような作用が推測されています。
- 抗炎症作用
全身や臓器の微細な炎症を抑える可能性。 - 血管内皮機能の改善
血管の健康状態に影響する可能性。
ただし、これらは主に基礎研究や探索的解析による知見であり、詳細なメカニズムの解明は今後の課題とされています。
一方で、慎重に考えるべき「懸念点」
この総説は、メリットだけでなく、懸念点や注意点についても公平に記載しています。
1.消化器症状への配慮
悪心(吐き気)、嘔吐、下痢などは依然として主要な副作用です。総説では、用量を急激に増やさず、体が慣れるのを待つ(ゆっくり増量する)ことの重要性が強調されています。
2.筋肉量低下(サルコペニア)の懸念
体重が減る際、脂肪だけでなく筋肉量(除脂肪量)も減少します。特に高齢の方や、もともと筋肉量が少ない方では、機能低下につながらないよう注意が必要です。一方で、「どの程度の筋肉減少が機能障害につながるか」は、現時点ではまだ研究途中とされています。
3.まれな眼・視神経関連の懸念(未確定)
強力なGLP-1関連薬と眼・視神経の一部疾患との関連が報告されていますが、他研究で確認されていない点もあり、頻度は非常に低い可能性が示されています。現時点では、通常の眼科フォローが推奨される段階であり、特別な検査が必須とされているわけではありません。
4.全員に必要な薬ではない
予防的に誰にでも推奨されるものではありません。あくまで、リスクとベネフィットを天秤にかけ、適切な適応がある方に使用を検討すべき薬剤です。
次世代の薬について
総説では、今後の展望として「次世代薬」も紹介されています。
- 内服薬(小分子GLP-1薬)
注射ではなく飲み薬としての利便性向上を目指すもの(例:Orforglipronなど)。 - 多重作動薬(デュアル/トリプルアゴニスト)
複数のホルモン経路に作用し、より大きな効果が期待される一方、消化器症状や治療中止率の観点から慎重な評価が必要な段階です。
【重要】2026年1月15日時点の「日本における保険適用」
ここまで述べてきた多臓器への効果は、主に海外試験を含む医学的エビデンスに基づくものです。
一方で、日本の公的医療保険における適用は明確に区別されています。
※現時点の原則(2026年1月15日時点)
- 2型糖尿病
→ GLP-1受容体作動薬は、一定条件下で公的保険適用があります。 - 肥満症
→ ウゴービ(セマグルチド2.4mg)/ゼップバウンド(チルゼパチド)は、「肥満」ではなく「肥満症」に対して、- 高血圧・脂質異常症・2型糖尿病のいずれかを有する
- 食事療法・運動療法で十分な効果が得られない
- BMI 35以上、または BMI 27以上+肥満に関連する健康障害を複数有する
などの条件を満たす場合に、保険適用となります。
さらに、最適使用推進ガイドラインに沿った運用(施設要件等)が求められます。 - 心血管疾患・心不全・慢性腎臓病・脂肪肝などの「臓器保護目的」
→ 現時点では、日本の保険適用としては認められていません。
つまり、Lancet総説で示される多臓器ベネフィットは、医学的に注目されている段階であり、日本の保険診療にそのまま直結するわけではない点が重要です。
院長としてお伝えしたいこと
今回のLancet総説から読み取れるのは、GLP-1関連薬が「魔法の薬」でも「危険な流行薬」でもなく、
適切な対象者に、適切な管理下で使用を検討することで、将来的に臓器保護を含むメリットが期待できる可能性がある治療選択肢
である、という位置づけです。
当院では、
- 現在の病状
- 将来の健康リスク
- 日本の保険制度
- 生活習慣(食事・運動)
をすべて踏まえたうえで、治療の可否を一緒に整理しています。
「情報は多いけれど、自分に合っているのか分からない」
そう感じた時は、診察室で一緒に確認しましょう。
※当院では、治療の可否だけでなく、「今は薬を使わない」という判断も含めて丁寧にご説明しています。
※本記事は2026年発表の総説に基づく医学情報の提供を目的としたものです。実際の治療適応・保険適用・費用負担は、制度改定や個別状況により異なります。必ず主治医にご相談ください。
参考文献
[1] Nauck MA, Tuttle KR, Tschöp MH, Blüher M. Glucagon-like receptor agonists and next-generation incretin-based medications: metabolic, cardiovascular, and renal benefits. The Lancet. Published online January 14, 2026.
DOI: 10.1016/S0140-6736(25)02105-1
