2026/01/18
【横浜・戸塚駅西口 徒歩10分/駐車場あり】
内科・循環器内科・糖尿病内分泌内科|戸塚クリニック
(院長:村松 賢一)
当院は「内科のかかりつけ」として、
高血圧・糖尿病などの生活習慣病や体調不良、
甲状腺を含む内分泌のご相談まで幅広く対応しています。
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【2026年1月アップデート】プラスチックと健康 ― フタル酸エステルと少子化・不妊をめぐる医学的整理
※本記事は、2025年9月10日に公開した当院ブログ記事「米国ワシントンポストが報じた『プラスチックと健康』」を踏まえ、その後に公表された国際的医学論文・システマティックレビューを反映し、2026年1月時点の知見として内容を整理・加筆したアップデート版です。

🔰 30秒でわかる要点(結論)
フタル酸エステル(フタレート)とは?
フタル酸エステル(Phthalates)は、プラスチック製品の柔軟性や耐久性を高めるために添加される可塑剤の総称です。
フタル酸エステルには多くの種類がありますが、その中で最も代表的で、古くから広く使われてきたのが「DEHP(フタル酸ジ-2-エチルヘキシル)」です。
医学研究で健康影響が指摘されるデータの多くは、このDEHP(およびその代謝物)に関するものです。
身近な使用例
- 食品包装・ラップ類
- プラスチック容器
- 化粧品・香料製品(Fragranceの持続剤として)
- 医療用チューブや点滴ライン
※医療機器は治療上のベネフィット(救命や治療効果)がリスクを明確に上回るため使用されています。近年はDEHPフリー素材への移行も進んでいます。
体内に入る主な経路は、食事(プラスチック包装や加工過程からの移行)、吸入、皮膚吸収など多岐にわたります[1]。
なぜ今、注目されているのか?
従来は「高濃度曝露」が主に問題視されていましたが、近年は低用量でも、長期間にわたる曝露の影響(内分泌かく乱作用)が議論されるようになりました。
特に注目されているのが、以下の感受性の高い時期(Window of susceptibility)です。
- 妊娠前〜妊娠初期(第1三半期)
- 妊活・生殖医療の過程
- 胎児期〜乳幼児期
少子化と「環境要因」という視点
当院ブログでは以前、少子化は「個人の努力不足」だけでは説明できず、社会構造や環境要因が複雑に絡み合っているという視点から整理した記事を公開しています。
こちらの記事では、生殖年齢の上昇、社会的ストレス、医療アクセス、そして環境曝露といった「全体像」を扱いました。
本記事は、その中で触れた“環境要因”の一つとして、比較的研究が進んでいる「フタル酸エステル(特にDEHPなど)」を医学的に掘り下げる位置づけです。
医学的エビデンス:現在わかっていること
※以下は国際的なシステマティックレビューや大規模コホート研究で「関連が示唆されている」知見の整理であり、個別の症例における単一原因として断定できるものではありません。
男性への影響
- 精子数・運動率の低下との関連
- テストステロンレベル低下との関連
(特に前述の DEHP や DBP系について、生殖毒性に関するレビューで報告されています[1][3])
女性への影響
- 卵巣機能(予備能)への影響の可能性
- 不妊・体外受精(IVF)成績低下との関連
→ 複数の国際的大規模レビューにおいて、尿中フタル酸代謝物(DEHP代謝物等)濃度と採卵数減少等の関連性が強く示唆されています[2][4]。
妊娠・胎児期への影響
- 早産リスクとの関連:米国の16コホート(6,000人超)を統合したプール解析において、尿中フタル酸代謝物濃度の上昇と早産リスクの関連が報告されています[6]。
- 小児期の神経発達指標(運動、行動)との関連が示唆された研究もあります[7]。
重要なのは、
👉 これらは多因子の中の一要素であること
👉 過度に恐れず、しかし予防的な視点を持つこと
です。
日本の規制はどうなっている?
日本では「乳幼児向け玩具」や「一部の食品容器」については食品衛生法に基づく規制があります。
一方、一般生活用品については欧米(REACH規制など)ほど包括的ではなく、行政的には「通常の生活レベルでは健康リスクは限定的」と評価されています。
ただし、近年の国際的な研究蓄積(低用量影響の解明)を踏まえ、「予防的な視点での生活改善」が臨床現場でも提案され始めています。
今日からできる「医学的に現実的な工夫」
恐怖を感じる必要はありません。介入研究では、生活習慣を少し変えるだけで、尿中のフタル酸代謝物濃度が有意に低下することが示されています[5]。
① 新鮮・未加工食品を選ぶ(最重要)
- 加工食品・パッケージ食品を減らす
- 野菜・果物・自炊を増やす
→ 食品包装や加工ラインからの移行を減らす最も効果的な手段の一つです。
② 電子レンジ使用時の一工夫
- プラスチック容器のまま加熱しない
- 耐熱ガラス・陶器容器に移して温める
→ 高温になるとプラスチックからの化学物質の移行(Migration)が起こりやすくなるためです。
③ 日用品・化粧品の選択
- 「Phthalate-free」「Fragrance-free」表示を参考にする
※すべてを一度に変える必要はありません。「これならできそう」と思うものを 1〜2個 取り入れるだけで十分意味があります。
よくある質問(Q&A)
Q. 妊活中ですが、完全に避けないといけませんか?
A. 現代社会で完全回避(ゼロリスク)は現実的ではありません。重要なのは「総量を減らす(Risk Reduction)」ことです。ストレスにならない範囲で取り組みましょう。
Q. ペットボトルは全部ダメ?
A. 直ちに危険ということはありません。ただし、高温になる場所(車内など)での放置や、繰り返しの使用は避けることが推奨されます。
Q. 子ども用の食器やおもちゃはどう選べばいい?
A. 国内の玩具には規制(STマーク等)があります。食器については、傷がついたプラスチックの使用を避ける、熱い汁物は陶器やステンレスにするなどの工夫が有効です。
Q. 医療用チューブは大丈夫?
A. 医療機器は、その使用による治療効果がリスクを上回る場合にのみ使用されます。医療現場でも素材の改良が進んでいます。
※治療や検査を自己判断で中断せず、気になる点は医師に相談してください。
まとめ:院長としての考え
少子化や不妊の問題は、年齢・体質・生活習慣・社会環境など、複数の要因が絡み合っています。
フタル酸エステルの話も、「あなたの努力が足りない」という話ではありません。
不安を煽らず、正しく知り、賢く減らす。
それが医療として最も誠実な向き合い方だと考えています。

環境要因や生活習慣の見直しは、一人で抱え込むとストレスになります。
当院(横浜市戸塚区)の外来では、こうしたテーマについても整理しながらお話ししています。
ネット情報で不安になった時は、診察室で一度一緒に整理しましょう。
主要参考文献
[1] Moghazy M, et al. A Systematic Literature Review of Reproductive Toxicological Studies on Phthalates. Int J Mol Sci. 2025;26(18):8761.
DOI: 10.3390/ijms26188761
[2] Basso CG, et al. Exposure to phthalates and female reproductive health: A literature review. Reprod Toxicol. 2022;109:61-79.
DOI: 10.1016/j.reprotox.2022.02.006
[3] Mesquita I, et al. Update About the Disrupting-Effects of Phthalates on the Human Reproductive System. Mol Reprod Dev. 2021;88(10):650-672.
DOI: 10.1002/mrd.23541
[4] Xie G, et al. Association Between Phthalate Exposure and Reproductive Health in Patients Undergoing Assisted Reproductive Treatment: A Systematic Review and Meta-Analysis. Reprod Toxicol. 2025;136:108948.
DOI: 10.1016/j.reprotox.2025.108948
[5] Sieck NE, et al. Effects of Behavioral, Clinical, and Policy Interventions in Reducing Human Exposure to Bisphenols and Phthalates: A Scoping Review. Environ Health Perspect. 2024;132(3):36001.
PubMed: 38477609
[6] Welch BM, et al. Associations Between Prenatal Urinary Biomarkers of Phthalate Exposure and Preterm Birth: A Pooled Study of 16 US Cohorts. JAMA Pediatr. 2022;176(9):895-905.
DOI: 10.1001/jamapediatrics.2022.2252
[7] Trasande L, et al. The Effects of Plastic Exposures on Children’s Health and Urgent Opportunities for Prevention. Lancet Child Adolesc Health. 2025;9(11):796-807.
DOI: 10.1016/S2352-4642(25)00212-3
【更新履歴】
• 初出:2025年9月10日
• 改訂:2026年1月(医学的知見および参考文献のアップデート)
