2025/12/01
📝 高齢者の薬「7大タブー」──本当に危ないのはどれ?
センテンススプリング🤭の記事を、2025年医学でやさしく補正してみた
1. はじめに
最近、ある“センテンススプリング系”週刊誌🤭で、
「高齢者の薬の7大タブー!命に関わる危険な飲み合わせ」
という刺激的な特集が出ました。
方向性は正しいのですが、毎度おなじみの
- 平成のまま時間が止まったような危険認識🤭
- 最新医療の反映不足
- 数字強めの“見出し補正”
などが混ざり、患者さんの不安を必要以上に煽りかねません。
ただし、多剤服用(ポリファーマシー)が重大課題なのは事実です。あるレセプト解析では、
75歳以上の外来高齢者のおよそ4人に1人が7剤以上の薬を服用している
と報告されています(2022年データ)。
このブログでは、
2025年時点で公表されているガイドラインやレセプト解析などを踏まえつつ、7つの“本当に危ないポイントだけ”をやさしく補正してみます。
2. まず最初に:多剤服用は「依存心の問題」ではありません
週刊誌では「薬を減らされたくない心理」などが強調されがちですが、現在の医学的な整理では、主な要因は “情報連携・一元管理の問題”だとされています。
たとえば:
- 高血圧・糖尿病・脂質異常症など複数の慢性疾患
- 複数科・複数医療機関・複数薬局での処方
- お薬手帳の多冊化
- サプリや市販薬を医師側が把握しきれない
こうした要素が重なって、結果として薬が増えやすくなります。
日本老年医学会や厚労省の資料でも、
患者さん個人の心理というより、医療者側の情報連携や処方の一元管理といった“構造の問題”が大きい、とされています。
ですので、
「薬に依存しているから多剤服用になる」という理解は、現場の実感とも少しズレがあります。
3. センテンススプリング🤭の「7大タブー」を2025年医学で再点検
ざっくりまとめると:
- 7つのうち5つは“方向性そのまま正しい”
- 2つ(特にワーファリン問題)は“今の実態と少しズレあり”
❶ NSAIDs/アセトアミノフェンの重複
まずは「痛み止め」の話。
- NSAIDs(ロキソニン系の痛み止め) → 胃潰瘍・腎機能悪化のリスク
- アセトアミノフェン → 肝機能への負担
整形外科・内科・市販薬で「自分でも気づかない重複」が起こりやすいのは事実です。
電子カルテや薬局の重複チェック機能は進化してきましたが、
市販薬やサプリまで含めると、今でも重複は起こり得ます。
なお、NSAIDsそのものも
「高齢者に対して特に慎重な投与を要する薬」の代表として、各種リストに挙げられています。
➡ 医師・薬剤師に、「処方薬+市販薬+サプリ」を全部伝えることが大切です。
❷ 降圧薬 × NSAIDs(ロキソニン系)──“本当に危ない”組み合わせ
● 本来は「スピロノラクトン」ではなく、“MRA全体”の問題
記事では「スピロノラクトン」という薬名が出てきますが、臨床的には
- スピロノラクトン(アルダクトンA)
- エプレレノン(セララ)
といったミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)全体の話として捉えるのが正確です。
● スピロノラクトンは男性には使いにくい薬
スピロノラクトンは抗アンドロゲン作用(男性ホルモンをブロックする作用)があり、
- 乳房の張り・女性化乳房
- 性機能低下
などの副作用が出ることがあるため、
男性にはやや使いにくい薬です。
そのため2025年の現場では、
より副作用の少ないエプレレノン(セララ)が主流になりつつあるというのが、より実態に近い姿です。
にもかかわらず、記事では「スピロノラクトン」が代表例として挙がっており、このあたりにも“平成感”が少し残っています。
● なぜ NSAIDs(ロキソニン系)とMRAが危険なのか
- NSAIDs → 腎血流低下 → 血圧上昇・腎機能悪化
- MRA(スピロノラクトン/エプレレノン) → カリウムを体にためる
この2つが重なると、
- 高カリウム血症 → 不整脈・心停止リスクが上がります。
さらに、
- ACE阻害薬(〜プリル:エナラプリルなど)
- ARB(〜サルタン:ロサルタンなど)
は、それ単体でもNSAIDsと重なると腎機能悪化のリスクが高まる薬です。
ここにMRAまで加わると、いわゆる
「ACE阻害薬 or ARB」+ 利尿薬 + NSAIDs = “トリプルワミー”
となり、
急性腎障害(AKI:急性腎障害)のリスクが有意に高まると報告されています。
➡ 痛み止め(市販のロキソニン等)を飲む前に、今飲んでいる降圧薬の名前を必ず医師・薬剤師に伝えましょう。
❸ 糖尿病薬 × 鎮痛薬
ここも週刊誌の警告は、方向性として妥当な部分が多いです。
● SU剤(スルホニルウレア系)は“古い薬”になりつつある
アマリール(グリメピリド)などのSU剤は、
- 低血糖リスクが高く
- 特に高齢者では長時間続く低血糖を起こしやすい
ため、
現在のガイドラインでは、高齢者の第一選択からは外れており、使用頻度もかなり減ってきています。
ただし、まだ継続して使っておられる方もいるのが実情です。
- SU剤+アスピリン系鎮痛薬
- インスリン+鎮痛薬
では、低血糖リスクが増えることが知られています。
一方で、
- メトホルミン
- DPP-4阻害薬
- SGLT2阻害薬
などは単独では低血糖が起こりにくいタイプとされていますが、腎機能低下や他の薬との組み合わせによっては例外もあり得ます。
➡ 冷や汗・手の震え・ふらつきは低血糖のサイン。そんな症状があったら、我慢せず早めに相談してください。
❹ SGLT2阻害薬 × 利尿薬
SGLT2阻害薬(フォシーガ、ジャディアンス等)は、腎臓から尿へ糖を排泄することで血糖を下げる薬で、同時に軽い利尿作用があります。
ここにさらに別の利尿薬(ラシックスなど)が重なると、
- 脱水
- 起立性低血圧(立ちくらみ)
- 腎機能の一時的な悪化
のリスクが高まることが、適正使用の資料などでも指摘されています。
特に、
- フレイル(体力や筋力が落ちてきた)高齢者
- 低体重の方
- 食事・水分摂取が少ない方
では、より慎重な調整が必要です。
➡ 食事や水分があまり取れないときや、いつもよりふらつきが強いときは、
自己判断で続けず、必ず主治医に相談を。
❺ 市販感冒薬 × 高血圧・心疾患
市販の総合風邪薬には、多くの場合
- NSAIDs系の解熱鎮痛成分
- カフェイン
- 擬似エフェドリン(交感神経を刺激して鼻づまりを取る成分)
などがセットで入っています。
これらは、
- 血圧を上げる
- 心拍数を増やす
- 不整脈を悪化させる
可能性があります。
一方で、アセトアミノフェン主体の風邪薬は、高血圧・心疾患のある方でも比較的安全寄りとされています。
とはいえ、「比較的安全 = 誰でもOK」という意味ではなく、
➡ 心臓や血圧の薬を飲んでいる方は、市販薬を使う前に薬剤師や医師に一言相談していただくと、より安心です。
❻ 抗ヒスタミン薬 × 精神安定剤 × 前立腺肥大
いわゆる「眠くなるタイプのアレルギー薬・風邪薬」の多くは、一世代の抗ヒスタミン薬で、同時に抗コリン作用を持ちます。
その結果:
- ふらつき → 転倒リスク増加
- 膀胱の収縮力低下 → 尿が出にくくなる(尿閉)
とくに前立腺肥大のある男性にとっては、夜間の排尿障害を一気に悪化させることがあります。
高齢者で「慎重にすべき薬」をまとめた各種リスト(Beers基準、日本版PIMs など)でも、
一世代の眠くなる抗ヒスタミン薬は“できれば避けたい薬”の代表格とされています。
➡ 「眠くなる」と書いてある薬は、
今飲んでいる精神安定剤や前立腺治療薬との相性も含め、必ず確認を。
❼ ワーファリン × ビタミンK食品 × DHA/EPA
センテンススプリング🤭が一番煽りたくなるポイントですが、
ここが2025年の現実との“最大のズレ”の一つです。
● ワーファリン+ビタミンKの話自体は正しい
- 納豆・青汁・ほうれん草など、ビタミンKの多い食品 → ワーファリンの効果を弱める
これは添付文書にも記載されている、昔からの“鉄則”です。
● ただし、今の主役はワーファリンではない
現在、心房細動などの血栓予防で中心的な役割を担っているのは、
- エリキュース
- イグザレルト
- プラザキサ
などのDOAC(直接経口抗凝固薬)です。
あるDPCデータ解析では、
ワーファリンの処方割合は5%前後まで減少し、DOACが抗凝固薬の中心になりつつあると報告されています。
つまり、
「抗凝固薬=ワーファリン、青汁は絶対ダメ!」
という平成時代の感覚のまま話をすると、2025年の実態とはややズレてしまいます。
● それでもワーファリンが不可欠な方もいる
もちろん、
- 機械弁(人工弁)を入れている方
- 重い腎機能低下のある方
など、特定の条件では今もワーファリンが重要な薬です。
そのような場合は、
- 納豆・青汁などビタミンKの多い食品をどの程度・どのくらいの頻度で摂ってよいか、主治医と相談して決めていくのが安全です。
● DHA/EPAサプリは?
DHA・EPAは、青魚やサプリに含まれる「オメガ3脂肪酸」で、血液をサラサラにする性質があるとされています。
- 出血傾向が増えるとする研究もあれば
- 明確な増加を認めないとする研究もあり
エビデンスは現時点でやや混在しています。
➡ いずれにせよ、
自己判断で大量に飲むのは避け、抗凝固薬を飲んでいる方は、サプリの内容を必ず主治医に伝えてください。
4. 週刊誌が“怖い話”に寄せる理由
センテンススプリング🤭式の見出しは、どうしても
- 「絶対ダメ!」
- 「命に関わる!」
- 「医療者が見逃す!」
といった“怖い言葉”に寄りがちです。純粋にその方が読まれやすいからです。
しかし医療は、
例外が多く、文脈がすべて。
同じ薬でも、
- 年齢
- 腎機能
- 他の薬
- 生活スタイル
によって「やってはいけない度合い」は変わります。
➡ ですから、
記事を読んで不安になったときに、一番危ないのは“自己判断で薬を中止してしまうこと”です。
「こういう記事を読んだのですが…」とそのまま持ってきていただくのが、いちばん安全で、いちばん話が早いです。
5. 高齢者が本当にやるべき「3つのこと」
怖い話を並べるより、具体的な行動のほうが、何倍も健康寿命を守ります。
✔ ① すべての薬・市販薬・サプリを伝える
- 他院の処方薬
- 市販の風邪薬・痛み止め
- 健康食品・サプリ
全部ふくめて“自分の薬”です。「こんなものまで…?」と思わず、遠慮なく教えてください。
✔ ② お薬手帳は「1冊にまとめる」
お薬手帳が2冊・3冊あると、誰も全体像が見えません。
- 1冊に整理する
- アプリ派の方は、アプリ内で一元管理
それだけで、重複処方のリスクはかなり減らせます。
✔ ③ 3〜6か月ごとに“薬の棚卸し(デプリスクリプション)”
高齢者の医薬品適正使用の指針などでは、「デプリスクリプション(減処方)」が推奨されています。
ここでいう「減らす」とは、
単に薬を減らすのではなく、
“本当に必要な薬だけを残す”という積極的な治療の一部です。
たとえば、
- 飲み忘れが多い薬
- 昔の病気の名残で続いている薬
- 今は別の薬に置き換えた方が安全なもの
こうしたものを、
定期受診のタイミングで年に1〜数回、一緒に見直していきましょう。
6. まとめ
センテンススプリング🤭の記事は、あくまで“気づきのきっかけ”にすぎません。
本当に大切なのは、
- 2025年時点の医学知識に照らして、落ち着いて理解し直すこと
- 一人で不安を抱えず、主治医・薬剤師と顔を合わせて話すこと
- 薬を減らすことも、立派な治療の一部だという認識
怖がらせるための医療ではなく、
安心して暮らすための医療を、一緒につくっていければと思います。
薬について気になることがあれば、どんな小さなことでも、どうぞ遠慮なくご相談ください。
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