2025/12/07
超加工食品(UPF)は「カロリーの問題ではない」──因果メカニズムがついに見えてきた話
〜Nature Reviews Endocrinology(2025/12/5)& Lancet Series(2025/11/18)より〜
要約:
2025年の最新研究から、超加工食品(UPF: ultra-processed food)の健康影響は 「カロリーのとり過ぎ」だけでは説明できず、食品添加物・加工による腸内フローラの乱れ・慢性炎症・ホルモン異常が、 2型糖尿病や内分泌異常、健康格差に関わっている可能性が明らかになりつつあります。
本記事では、内分泌・循環器を専門とする立場から、UPFの因果メカニズムと政策提言、さらに 明日からできる3つの実践ステップをわかりやすく解説します。
※当記事におけるUPFとは ultra-processed food=超加工食品の略であり、宗教団体や特定の組織名などとは一切関係ありません。
■ 超加工食品(UPF)とは?(NOVA分類 Group4)
栄養疫学でよく使われる「NOVA分類」では、食品を加工度によって4つのグループに分けます。 そのうち Group4 が超加工食品(UPF)で、次のような特徴があります。
- 食品添加物(乳化剤・甘味料・香料・着色料など)が多く使われている
- 原材料の形が失われ、食感・香りが人工的に調整されている
- 手軽で保存期間が長く、「つい食べ過ぎてしまう」ように設計されている
■ 代表的な UPF の例
- 菓子パン・スナック菓子・チョコレート・クッキー
- カップ麺・インスタントラーメン・レトルト食品
- 炭酸飲料・エナジードリンク・甘いペットボトル飲料
- 冷凍食品(揚げ物・ピザ・加工された惣菜など)
- 加工肉(ハム・ソーセージ・ベーコン・サラミなど)
※UPF=「絶対に食べてはいけない食品」ではありません。
ただ、「健康影響の研究が最も進んでいるカテゴリー」であり、 量と頻度をどうコントロールするかが大事なポイントです。
みなさん、こんにちは。戸塚クリニック院長の村松賢一です。
公式サイト:https://www.totsukaclinic.com
最近、外来でこんなご相談が増えています。
- 「食事の質を見直したいけれど、何から始めればいいか分からない」
- 「血糖値やコレステロールがなかなか改善しない」
- 「子どものおやつや飲み物をどう選べばいいか心配」
こうしたお悩みの背景にあるキーワードのひとつが、超加工食品(UPF)です。 戸塚クリニックでは、最新の栄養疫学・内分泌学に基づいた生活習慣・栄養相談も行っています。
今回取り上げる 2 つの重要論文
① Nature Reviews Endocrinology 総説(2025年12月5日公開)
Mathilde Touvier
Health effects of ultra-processed food: uncovering causal mechanisms.
https://www.nature.com/articles/s41574-025-01218-5
UPFの健康影響と、その因果メカニズムを包括的に整理した総説論文です。 疫学研究・臨床試験・動物実験・細胞レベルの研究を統合し、
- カロリー
- 糖質・脂質・塩分などの栄養成分
だけでは説明できない、UPF 特有の影響に踏み込んでいます。
② Lancet Series Editorial(2025年11月18日オンライン公開)
Ultra-processed foods: time to put health before profit.
https://doi.org/10.1016/S0140-6736(25)02322-0
UPF と人間の健康をテーマにした The Lancet のシリーズの一つで、
- UPF が慢性疾患や健康格差を深めていること
- ごく少数の巨大企業が市場と政治に強い影響力を持っていること
- 税・ラベリング・子ども向けマーケティング規制などの政策の必要性
などを論じ、「健康より利益を優先する構造を変えるべきだ」という強いメッセージを発信しています。
この Lancet の Series については、 すでに当院ブログ 「 【2025年 Lancet 直近三部作】超加工食品(UPF)の全健康リスクと今日からできる対策 」でもご紹介しました。 今回はそこから一歩踏み込み、Touvier らの Nature レビューと組み合わせることで、
- 「メカニズム(なぜ悪いのか)」
- 「社会構造(なぜ減らしにくいのか)」
の両方を、よりクリアに整理してみたいと思います。
なぜ今、UPF 研究が「世界的に注目されるテーマ」なのか?
インスタント食品、菓子パン、スナック菓子、炭酸飲料、冷凍食品……。 私たちの生活の中に、UPF はごく当たり前の存在になっています。
これまでも、「UPF をたくさん食べる人ほど、そうでない人に比べて」
- 肥満
- 2型糖尿病
- 心血管疾患
- 一部のがん
などのリスクが高い、という関連は多く報告されてきました。
しかし 2025 年前後は、単なる関連を超えて 「なぜ悪いのか」という因果メカニズムに踏み込んだ研究が一気に増えた節目と言えます。
Nature レビューは、UPF の健康影響が
- 総カロリー量
- 糖質・脂質・塩分などの栄養成分
だけでは説明できず、
- 食品添加物(乳化剤など)
- 加工工程で生じる化学物質
- 食品マトリックス(食品構造)の破壊
- 腸内細菌叢(腸内フローラ)の変化
といった複数の因子が関わることを整理しています。
一方で Lancet の Series は、UPF を
- 不平等を深める「食環境」
- 強力なマーケティングと規制の遅れ
- 少数の巨大企業が支配する産業構造
の文脈で捉えています。 つまり、UPF は個人の意志の問題だけではなく、構造的な問題として議論されつつある、ということです。
最新エビデンスのポイント(3つに整理)
1)2025年ヒト RCT:「カロリーを揃えても」健康指標が悪化
Nature レビューが紹介する 2025 年のランダム化比較試験(RCT)では、
- カロリーや栄養バランスをできるだけ揃えた条件のもとで
- UPF を多く含む食事 と、そうでない食事を比較
したところ、UPF が多いグループでは、
- 体重の増加
- インスリン抵抗性の悪化
- 生殖ホルモンバランスの乱れ
といった変化が報告されています。
もちろん、「摂取カロリーを完全に同一に固定した実験」ではありませんが、
- 見た目のカロリーや栄養組成が同じでも、UPF の比率が高い食事では代謝やホルモンが悪化しやすい
という点を強く示す結果となっています。
2)乳化剤(食品添加物)が腸内フローラを変え、世代をまたぐ影響を示唆
マウスを用いた一連の研究では、代表的な乳化剤(CMC, P80 など)を含む食事によって、
- 腸内細菌叢(腸内フローラ)が変化する
- 腸のバリア機能が低下し、「リーキーガット」のような状態になりやすくなる
- 慢性的な炎症が起きやすくなる
- その結果、体重増加や高血糖、高インスリンなど代謝異常が起こりやすくなる
ことが示されています。
さらに、
- 母マウスが乳化剤を摂取することで、生まれてくる子マウスの腸内環境や炎症の起こりやすさ、代謝異常のリスクが高まる可能性
を示唆するデータも出始めています。
「人間でも同じことが必ず起こる」とまでは言えませんが、
- 世代をまたぐ影響を説明しうるメカニズムが見え始めている
という点で、食品安全や腸内環境(腸内フローラ)を考えるうえで大変重要な知見です。
3)大規模コホート:複数添加物への日常的曝露と 2 型糖尿病リスク
人を対象とした長期追跡(コホート)研究では、
- 人工甘味料
- 乳化剤
- その他の食品添加物
など、複数の添加物への日常的な曝露が、 2 型糖尿病の発症リスク上昇と関連することが報告されています。
ここはまだ
- 「因果関係が完全に証明された」とまでは言えない
段階ですが、
- 短期のヒト RCT
- 動物・細胞レベルのメカニズム研究
- 長期のコホート研究
が同じ方向性の結果を示し始めていることから、
- UPF と食品添加物のリスク推定の信頼性が、一段と高まってきた
と言えます。
Lancet が描く「健康 × 格差 × 環境 × 産業構造」
Lancet の Editorial は、UPF を次のような特徴を持つ食品群として描いています。
- 安価で手に入りやすく、低所得層ほど頼らざるを得ない
- 味・見た目・食感が工夫され、「つい食べすぎてしまう」よう設計されている
- 広告・マーケティングの対象になりやすく、とくに子どもが狙われやすい
そのうえで、
- 少数の巨大多国籍企業が市場と政治に強い影響力を持っていること
- 低所得層・若年層ほど UPF に依存せざるを得ず、健康格差が拡大しやすいこと
- UPF がプラスチック包装や化石燃料依存を通じて環境負荷にもつながっていること
を指摘し、UPF を「個人の生活習慣の問題を超えた、社会構造と環境の問題」として位置づけています。
具体的な政策アクションとして、Editorial では次のようなものが挙げられています。
- フロントパックの警告ラベル(砂糖・塩分・脂肪・UPF の多さを一目で分かるように表示)
- 子ども向けマーケティングの規制・禁止
- UPF 税(砂糖飲料税などを含む)の導入
- 学校・病院など公的施設での UPF 提供を抑制し、ヘルシーな選択肢を増やす
- 農業補助金を UPF 原料作物から、より健康的な食材へシフトしていくこと
また、Bloomberg Food Policy Program のような大学・自治体・市民団体が連携するフードポリシー・ネットワークや、 EAT–Lancet などの国際的な提言も紹介し、「各国が食環境を変えるための具体的な道筋」を示しています。
こうした視点は、日々の診療で患者さんのお話をうかがっていても非常に共感するところです。 「我慢が足りないからこうなった」ではなく、 そうせざるを得ない環境に置かれている人が多い、という現実を踏まえることが重要だと感じます。
臨床現場で、患者さんにお伝えしたいこと
Nature レビューと Lancet Series を合わせて読むと、次のようなメッセージに整理できます。
- UPF の健康影響は、単なるカロリーや糖質・脂質の量だけでは説明しきれない。
- 腸内環境の乱れ → 慢性炎症 → ホルモン異常 → 代謝異常という流れが、UPF を介して起こりうる。
- UPF は、個人の努力だけでは避けきれない「環境要因」でもある。
糖尿病・肥満・脂質異常症・PCOS(多嚢胞性卵巣症候群)などを診ていると、 「UPF の影響が一因として関わっていそうだな」と感じるケースも少なくありません。
明日からできる「UPFとのつき合い方」3ステップ
とはいえ、
- 「全部やめましょう」
- 「一切食べてはいけません」
という話ではありません。 完璧を目指さず、“続けられる小さな変更”からで十分です。
① 「元の姿がわかる食品」を少し増やす
- 野菜、果物、魚、肉、卵、豆類、ナッツなど
- 原形がわかる、加工の少ない食品を「一品だけ増やしてみる」
たとえば、
- 朝食の菓子パンを、「ゆで卵+バナナ+全粒粉パン」にしてみる
- 夜ごはんに、カット野菜でもよいので一皿だけサラダを足してみる
といった小さな一歩からで構いません。
② 加工食品を買うとき、ラベルを 1 回だけ見る
買い物のたびに完璧を目指す必要はありません。 まずは「気になったときだけ」で十分です。
パッケージの原材料表示を見て、
- 乳化剤
- 人工(合成)甘味料
- 着色料・香料 など
がずらっと並んでいるものは、
- 「毎日・たっぷり」ではなく、「ときどき・控えめ」にする
という意識を持つだけでも、大きな一歩になります。
③ 「毎日+たっぷり」から「週2〜3回+控えめ」へ
たとえば、
- 毎日食べていたスナック菓子を、「週2〜3回・少量」にしてみる
- 毎日飲んでいた甘い飲料を、「週に数回」に減らしてみる
こうした調整だけでも、体重・血糖・ホルモンバランスの改善に役立つケースも少なくありません。 無理のない範囲で、できるところから一緒に整えていきましょう。
当院でできるサポート
戸塚クリニックでは、内科・循環器内科の診療に加えて、 生活習慣病やホルモンバランス、腸内環境をふまえた食事・生活のご相談もお受けしています。
- 「自分に合った食事の整え方が分からない」
- 「子どもの UPF 摂取が気になる」
- 「健診で血糖・脂質・肝機能異常を指摘された」
といった方は、ぜひ一度ご相談ください。 一人ひとりの状況に合わせて、無理なく続けられるプランをご一緒に考えていきます。
▶ ご予約はこちら(オンライン予約)
https://wakumy.lyd.inc/clinic/hg08287
参考文献(発表日付き)
- Touvier M.
Health effects of ultra-processed food: uncovering causal mechanisms.
Nat Rev Endocrinol. 2025; ePub ahead of print. doi:10.1038/s41574-025-01218-5
(Published December 5, 2025) - The Lancet Editorial.
Ultra-processed foods: time to put health before profit.
Lancet. 2025; 406:2601. doi:10.1016/S0140-6736(25)02322-0
(Published Online November 18, 2025)
