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見た目から血流へ ― FFR/iFR・CT-FFR が導く「ムダを減らす」冠動脈治療
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見た目から血流へ ― FFR/iFR・CT-FFR が導く「ムダを減らす」冠動脈治療

 

 

見た目の“狭さ”だけで判断しない。血流の“意味”を測ることで、過剰でも不足でもない“ちょうどよい”介入へ。

 


 

🏃‍♂️ 2025年10月26日、小雨の中、横浜マラソンのフルマラソンを完走してきました。

タイムは自慢できませんが、42.195kmを走り切った達成感と翌日の筋肉痛を味わいつつ執筆しています。

医療もマラソンに似ています。――がんばりすぎると“オーバーペース”になり、かえって体を痛めてしまう。

今日は、「ムダを減らす冠動脈治療」についてお話しします。

 


 

 

🩺 免責・目的

 

 

本稿は一般向けの医療啓発です。特定の治療法の優劣や効果を保証するものではありません。

治療方針は症状・検査・全身状態を踏まえ、主治医が個別に判断します。

 


 

 

💓 冠動脈治療とは?(Coronary Revascularization / 冠動脈血行再建)

 

 

冠動脈は心筋に酸素と栄養を送る血管です。動脈硬化で狭くなると、狭心症心筋梗塞を起こします。

血流を取り戻す治療が冠動脈血行再建です。

 

  • PCI(Percutaneous Coronary Intervention:経皮的冠動脈インターベンション)

    カテーテルで行う治療の総称(バルーンやステントを使用)

  • PTCA(Percutaneous Transluminal Coronary Angioplasty:経皮的冠動脈形成術)

    PCIの一部で、ステントを使わずバルーンのみで拡張

 

 

いずれも皮膚の動脈から細い管を入れる低侵襲の手技です。現在はステントを用いるPCIが標準です。

 


 

 

🔬 見た目から“血流の意味”へ ― 科学的根拠に基づく進化

 

 

かつては「造影で70%狭い=治療」という判断が主流でした。

しかし今は、見た目が狭くても血流が十分なら治療を行わないという合理的な考え方に変わっています。

その支えとなるのが、血流の“機能”を測る技術です。

 


 

 

💡 FFRとは?(Fractional Flow Reserve / 冠血流予備量比)

 

 

冠動脈の入口(大動脈側)と狭窄部の先(末梢側)の圧力を同時に測り、その比を算出します。

 

  • 1.0に近い=正常

  • ≤0.80=虚血(血流不足)を示唆

  • 0.75〜0.80=グレーゾーン(症状や画像所見と併せて判断)

 

 

**FAME試験(NEJM 2009)**では、FFRに基づく治療選択により、不要なステント留置を減らしつつ、MACE(重大な心血管イベント)を有意に減少させる結果が報告されました。

 

🔎 MACE(メイス)とは?

「Major Adverse Cardiac Events」の略で、**心臓死・心筋梗塞・再血行再建(再PCIなど)**を総合的に評価する指標です。

数値が低いほど、重大な合併症が少ない=“ちょうどよい治療”ができていることを意味します。

 


 

 

🧠 iFR ― アデノシンを使わない“楽な血流評価”

 

 

(Instantaneous Wave-Free Ratio / 瞬時拡張期冠圧比)

 

FFRでは血管を最大に広げる薬アデノシンを投与して測定しますが、

この薬は一時的に息苦しさや胸部圧迫感を伴うことがあります。

 

iFRはこのアデノシンを使わず、**心拍の中で自然に血管抵抗が最も低い瞬間(wave-free period)**を利用して圧力比を算出します。

薬を使わないため、患者さんの負担が少なく・検査時間も短縮できるのが大きな利点です。

 

主要試験(DEFINE-FLAIR / iFR-SWEDEHEART, NEJM 2017)では、

**FFRと同等の効果(非劣性)**が示され、臨床現場で広く活用されています。

 


 

 

🩸 CT-FFR ― 「非侵襲」で血流を見える化するAI技術

 

 

CT-FFRは冠動脈CT画像をもとに、**コンピュータ流体力学(CFD)解析とAI(人工知能)**を組み合わせて血流を再現します。

CT画像から狭窄部を自動的に検出し、血流低下の程度を数値化します。

 

AI解析の利点:

 

  • 従来よりも短時間(数分)で結果を得られる

  • 高カルシウムや軽度の動きによる画像ノイズを自動補正

  • 虚血が疑われる領域をカラー表示で視覚化

 

 

非侵襲的に「どの血管を治療すべきか」を把握できるため、

**外来段階でのトリアージ(優先度判断)**にも活用されています。

CT検査だけで完結するケースもあり、カテーテル検査を省略できる例が増えています。

 

JACC Advances(2025)では、CT-FFRによる診断アルゴリズムが不要なカテーテル検査の削減と費用対効果の改善に寄与することが報告されています。

 


 

 

💉 ステント治療 ― DES と BMS の違い

 

項目

DES(Drug-Eluting Stent:薬剤溶出)

BMS(Bare-Metal Stent:金属)

構造

金属フレーム+薬剤+生体吸収性ポリマー

金属フレームのみ

目的

再狭窄を抑制(薬剤を徐放)

機械的支持(薬剤なし)

再治療率

低い傾向

やや高め

抗血小板療法

DAPT 6–12か月(出血リスクで短縮可)

短期で終了可能な場合も

現状

標準治療

特殊症例で使用

最新DESはフレームが薄く、薬剤(エベロリムス・ゾタロリムスなど)を数週間〜数か月で放出し、再狭窄を抑制します。

 


 

 

🧩 画像ガイドと「最適留置」

 

 

IVUS(血管内超音波)やOCT(光干渉断層法)を併用すると、

密着不良(マルアポジション)や拡張不足などを高精度に確認できます。

 

これらを是正し、十分な拡張+適切な密着を達成することが「最適留置(optimal stenting)」です。

ESC 2024では、**画像ガイドPCIをClass I(最も強く推奨)**としています。

 


 

 

🧭 周術期と退院 ― 安全と負担軽減のバランス

 

 

 

DAPT(Dual Antiplatelet Therapy / 二剤抗血小板療法)

 

 

ステント留置後は血栓を防ぐため、**アスピリン+P2Y12阻害薬(例:クロピドグレル、プラスグレルなど)**を併用します。

出血リスクの高い方では期間を短縮し、標準で6〜12か月、短期なら1〜3か月が目安です。

 

 

スタチン(HMG-CoA還元酵素阻害薬)

 

 

コレステロールを下げるだけでなく、血管内皮を安定化しプラークの破裂を防ぐ効果があります。

PCI前後にスタチンを適切に使用することで、再狭窄・周術期心筋障害のリスクを減らすことが確認されています。

 

 

退院とMRI

 

 

合併症がなければ翌日退院可能な報告もあり、最近のDESは多くがMR条件(MR Conditional)で1.5T〜3TのMRIに対応。

 


 

 

💬 よくある質問(Q&A)

 

 

Q1. 「70%狭窄」と言われました。すぐ治療が必要?

A. 見た目だけで決めません。FFR/iFRで血流不足を確認してから判断します。

 

Q2. ステントの種類で効果は変わる?

A. DESが主流ですが、出血リスクや病変部位によりBMSを選ぶこともあります。

 

Q3. ステント後にMRIは受けられる?

A. 多くは条件付きで可能です。ステントが入っていることを主治医・放射線科に伝えて確認してください。

 

Q4. 他科の手術が控えています。ステントを入れて大丈夫?

A. 抗血小板薬の中止時期を考慮し、循環器・外科・麻酔科が連携して調整します。

自己判断で時期を決めず、必ず主治医にご相談を。

 


 

 

📚 参考情報(主要リンク)

 

 

 

 


 

 

🌿 結び ― 「ムダを減らす」は“手を抜く”ことではない

 

 

FFR・iFR・CT-FFRという“血流のものさし”が登場したことで、

「見た目に狭いから治療」ではなく、**“血流に意味がある場所だけを治す”**医療が可能になりました。

 

それは“やらない治療”ではなく、“やる必要のない治療をしない”という選択

患者さんの体に優しく、医療資源も大切にする――それが本当の意味での「ムダを減らす治療」です。

 

血管の「見た目」だけでなく、「流れ」や「意味」を知ること。

それが、あなた自身の納得と安心につながる医療の形です。

 


 

 

(本記事は最新の医学的エビデンスとガイドラインに基づく一般教育資料です)

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