2026/02/14
【横浜・戸塚駅西口 徒歩10分/駐車場あり】
内科・循環器内科・糖尿病内分泌内科|戸塚クリニック
(院長:村松 賢一)
当院は「内科のかかりつけ」として、
高血圧・糖尿病などの生活習慣病や体調不良、
甲状腺を含む内分泌のご相談まで幅広く対応しています。
予約優先制ですが、予約なしでも受診可能です。
(予約をおすすめする理由は待ち時間を短くするためです。
混雑時はお待ちいただく場合がありますが、症状に合わせて柔軟に対応します)
症状が気になる方は、ご都合のよいタイミングでお越しください。
▶ WEB予約(24時間受付)
https://wakumy.lyd.inc/clinic/hg08287
▶ クリニック案内
https://www.totsukaclinic.com

「血圧を20mmHg以上下げると死亡率が上昇?」
―― 話題の対談記事(GOETHE)“全8主張”を循環器内科医が検算――
戸塚クリニック(横浜・戸塚|内科・循環器内科・糖尿病内分泌内科)村松 賢一 です。
■ 冒頭まとめ(まずここだけでOK)
- 結論:高齢者では「下げすぎ注意」は大事。ただし「20mmHg下げると死亡率が数倍」などの断定は一般化できません。
- 根拠の強さ:因果を見やすいRCT(ランダム化比較試験)やメタ解析では、適切な降圧が心血管イベント・脳卒中・死亡を減らす方向が支持されています。
- 最重要:自己判断で中止がいちばん危険(リバウンド高血圧→脳卒中・心不全の引き金)。
- 当院方針:「数字だけ」ではなく、家庭血圧・症状(ふらつき等)・腎機能・併用薬などを総合して利益が出て害が出ない範囲へ調整します(減薬・中止相談も安全に計画)。
※本稿は、話題となっている対談記事(媒体:GOETHE/連載「医学常識のウソ」)の主張を、ガイドライン・RCT・メタ解析という“共通言語”で検算する目的で整理したものです(閲覧日:2026年2月)。
警告:自己判断でお薬を中止しないでください。急な血圧上昇(リバウンド)は、脳卒中・心不全の引き金になります。
迷ったら「家庭血圧(1〜2週間)」と「お薬手帳」を持って相談してください。減薬・中止も含めて安全に計画します。
■ 主張1:JSH2025は“年齢に関係なく”130/80未満を強制する?(薬を飲む人が激増する?)
【判定】△(目標の提示は事実/「一律強制」「激増」の解釈が飛躍)
JSH2025(日本高血圧学会の最新の考え方)では、診察室血圧の目標として<130/80 mmHgが整理されています。 ただしこれは「全員を同じ速度・同じ強さでそこへ押し込む」という意味ではありません。
実臨床では、特に高齢者で次を必ずチェックします:
- 起立性低血圧(立ちくらみ)
- 転倒歴
- 脱水リスク(食欲低下・下痢・利尿薬など)
- 腎機能(eGFRやクレアチニンの変化)
- 多剤併用(薬の相互作用・飲み忘れ・副作用の重なり)
さらに75歳以上では、自立/プレフレイル/フレイル/要介護など「機能状態」を踏まえ、忍容性(ふらつき、だるさ、転倒など)を最優先して個別調整する枠組みが前提になります。 つまり、「目標値の提示」と「臨床での運用(強さ・速度・優先順位)」は別物です。
【患者さんへの意味】130/80は“強制ライン”ではなく、利益が出る範囲で安全に目指す目標です。 「下げるべき人」と「下げ方を慎重にすべき人」は同じではありません。
参考(公式ページ)
- 日本高血圧学会(公式):https://www.jpnsh.jp/
※論文化(Key highlights等)の参照は学術的に有用ですが、本記事では「ガイドラインは公式ページ」を主軸に置きます。
■ 主張2:降圧剤で血圧を20mmHg以上下げると、死亡率が1.5〜5倍になる?
【判定】×(一般化は不適切/観察研究の限界を超えた断定)
ここで最も大切なのは「研究デザイン」です。 記事で引用されがちなデータは、観察研究(コホート等)であることが多く、次の混入が起きやすいです:
- 適応バイアス:もともと重症・高リスクな人ほど薬が増える(=薬が多い群の予後が悪く見えやすい)
- 逆因果:病気が進行して血圧が保てない人が「低い群」に入る(=低いほど死亡が多いように見える)
一方、因果を見やすいRCT(ランダム化比較試験)では、より厳格な降圧でイベントや死亡が減る方向が示されています。 代表的な試験として、SPRINT(NEJM 2015)では全死亡が27%減少(HR 0.73)と報告されています。 高齢者に焦点を当てたSTEP(NEJM 2021)でも、厳格降圧が心血管イベントを減らしています。 また個人データメタ解析(BPLTTC, Lancet 2021)では、降圧の有益性が幅広い集団で支持されています。
RCT・メタ解析ミニ解説(なぜ「強い根拠」になりやすい?) +
RCT(ランダム化比較試験)は、参加者を「治療群/対照群」に無作為に割り付けることで、年齢や重症度などの違いが平均化されやすくなり、因果関係(治療が結果に影響したか)を評価しやすい研究です。
メタ解析は、複数のRCTを統合して解析することで、1つの研究だけでは見えにくい傾向をより安定して捉えます。 特に個人データメタ解析(IPD)は、元データレベルで統合するため、解析の透明性・一貫性が高いのが特徴です。
もちろんRCTにも対象集団・測定法・副作用などの論点はありますが、少なくとも「観察研究だけで“死亡率が数倍”と断定する」よりも、因果を丁寧に扱える枠組みです。
参考(RCT・メタ解析:DOIリンク)
- SPRINT(NEJM 2015):doi:10.1056/NEJMoa1511939
- STEP(NEJM 2021):doi:10.1056/NEJMoa2111437
- BPLTTC(Lancet 2021):doi:10.1016/S0140-6736(21)00590-0
【患者さんへの意味】 問題は「20下げたら危険」といった数字の単純化ではなく、誰に/どこまで/どの薬で/副作用なく下げるかです。 不安があるほど、自己判断ではなく「材料(家庭血圧・症状)」を揃えて相談するのが安全です。
■ 主張3:降圧剤治療群で心原性脳梗塞が増え、死亡が増える?(死亡率3倍?)
【判定】×(因果として断定できない/「高リスクだから治療される」を無視)
心原性脳梗塞の主因は、多くの場合心房細動です。 高血圧は、心房細動・心肥大・心不全のリスク因子でもあります。 観察研究で「治療群に心原性脳梗塞が多い」と見える場合でも、 “高リスクだから治療されている”(重症度の違い)が混ざりやすく、薬が原因とは言い切れません。
さらに臨床的には、適切な降圧は心不全や心房細動リスクを減らす方向に働き得ます(もちろん個別性があり、ふらつき等の副作用は必ず監視します)。
重要:自己中断はむしろ危険です。 薬を減らす・やめる相談も含めて、必ず主治医と一緒に計画を立ててください。
■ 主張4:日本は脳出血が減り脳梗塞が増えた。だから降圧は危ない?
【判定】△(疫学の流れは理解できる/結論が飛躍)
日本で脳卒中の内訳が変化してきた(脳出血が減り、脳梗塞が相対的に増えてきた)という疫学の流れ自体は知られています。 しかし、そこから「だから降圧が危ない」と一般化はできません。
降圧治療の有益性は、特定の脳卒中サブタイプの印象論ではなく、RCT・メタ解析という全体像で評価されます。 その全体像は、脳卒中・心血管イベントを減らす方向を支持しています(主張2のRCT・メタ解析参照)。
■ 主張5:英国NICEガイドラインは“一律治療は危ない”として禁じている?
【判定】△(個別化重視は正しい/「禁じる」は誇張)
NICE NG136は、年齢・リスク・忍容性に応じた個別化を重視します。 80歳以上では診察室血圧<150/90 mmHgを目安とする考え方が示されており、フレイル等では臨床判断がより重要になります。 これは「禁じる」ではなく、段階的に個別化するという方針です。
参考(公式ページ)
- NICE NG136(公式):https://www.nice.org.uk/guidance/ng136
【患者さんへの意味】「高齢者は一律に薬をやめる」ではなく、転倒・ふらつきを避けながら、利益が出る範囲を探すということです。
■ 主張6:スウェーデンは薬をあまり使わず長寿世界1位?
【判定】×(寿命は多因子/単一因子に回収できない)
寿命は、社会保障・生活習慣(食事・運動)・医療アクセス・感染症対策など多因子の結果です。 「降圧剤を使わないから長寿」という単一因子の因果に落とすのは科学的ではありません。 欧州でも降圧治療は一般的に実施されています。
■ 主張7:130/80を適用すると年間9万7000人が死ぬ?
【判定】×(前提が非現実的/実臨床と違う)
こうした「人数が増える」試算は、仮定次第で大きく振れます。 もし仮定が “全員を同じ強さで機械的に下げる/副作用調整なし/転倒・脱水・腎機能悪化を織り込まない” であれば、臨床現場の運用から外れます。
実臨床では、症状(ふらつき・だるさ等)や検査値(腎機能等)を見ながら、薬剤の種類・量・タイミングを調整し、無理な降圧は行いません。 したがって、極端な前提の試算をそのまま「現実の死亡増」として受け取るのは危険です。
■ 主張8:脳梗塞の基準(185mmHg)までなら安全?(tPA基準)
【判定】×(急性期と慢性期の混同)
急性期脳梗塞の適応条件(短時間・管理下)と、慢性期の日常生活で長期に維持してよい血圧は別問題です。 “救急のルール”を“日常のルール”に持ち込むのは危険です。

【比喩】救急車の緊急走行ルールを、日常運転に当てはめるようなものです。
tPA基準(185mmHg)ミニ解説:何のための数字? +
tPA(血栓溶解療法)は、急性期脳梗塞で「詰まった血管を溶かして脳を救う」ための治療です。 ただし出血リスクがあるため、投与前に血圧が高すぎると危険性が増します。
そのため臨床現場では、“短時間・院内・厳密に監視できる状況”で、投与前の血圧を一定範囲(例:185/110 mmHg未満)にコントロールする条件が置かれます。
ここでのポイントは、これは「救命のための急性期条件」であり、 「日常生活で長期に維持してよい血圧」を意味しない、ということです。

■ 総括:いちばん伝えたい結論
- 高齢者では「下げすぎ注意」→ 方向性としては妥当
- ただし「20mmHg下げると死亡率が数倍」という断定は、観察研究の限界を飛び越えた一般化
- RCT・メタ解析の全体像は、適切な降圧の有益性を支持(SPRINT/STEP/BPLTTC)
最大のリスクは自己中断です。
✅ 不安を感じている方へ(戸塚クリニックの方針)
当院では、血圧を「数字だけ」で決めません。横浜・戸塚エリアで、高血圧・降圧剤・血圧の下げすぎが不安な方はご相談ください。 家庭血圧、病歴、合併症、そして現在のお体の元気さ(機能状態)を総合し、必要なら「薬を減らす・やめる」選択肢も含めて、最適な着地点を一緒に探ります。
【受診時にあると助かるもの】
- 家庭血圧:できれば1〜2週間(朝晩)。
- お薬手帳:サプリ含む。
- 健診結果:腎機能・尿蛋白・心電図など。
- 症状メモ:ふらつき/転倒/だるさ/夜間頻尿など。
「下げるべき人」と「下げ方を慎重にすべき人」を整理し、利益が出て害が出ない治療へ調整します。
