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🍼 妊娠中のアセトアミノフェン ― BMJ最新研究(2025年11月10日発表)が示した「冷静に使うことが安心につながる」
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🍼 妊娠中のアセトアミノフェン ― BMJ最新研究(2025年11月10日発表)が示した「冷静に使うことが安心につながる」

 

 


 

 

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妊娠中のカロナール使用と子どもの発達リスク

アセトアミノフェンと自閉症 ― トランプ大統領の“流行病”発言を受けて考える、診断の広がり

 


 

みなさん、こんにちは。

🏃‍♂️2週前の横浜マラソンに続いて、11月9日は福岡マラソンに参加してきました。

タイムは横浜のときより少しだけ良くなった感じです。小雨の中、海沿いの風光明媚なコースを天神から糸島まで走り抜け、ゴールでは佐賀県唐津市に住む友人家族が完走を祝ってくれました。

走り終えた後の温かいスープと笑顔、あの瞬間にこそ「人とのつながりの力」を感じます。

 

医療の世界でも、誤解や情報の熱に流されずに“つながり”を保つ冷静さが求められます。

そこで今回は、**「科学と社会の間を冷静に結ぶ」**というテーマをお届けします。

 

これまでの記事では、政治的な発言やSNSの影響で「アセトアミノフェン=危険?」という印象が一人歩きする中、科学的根拠に基づいた冷静な理解の大切さをお伝えしてきました。

 

今回はその続編として、2025年11月10日に英国医学誌 BMJ(British Medical Journal)に掲載された Sheikh らの国際的アンブレラ・レビューを紹介します。

この研究は、妊娠中のアセトアミノフェン使用と、子どもの発達(自閉症や注意欠如・多動など)との関連を、世界中の研究データを統合して再評価したものです。

 


 

 

📘 BMJとは?世界中の医師が信頼する医学誌

 

 

BMJ(British Medical Journal)は、1840年にイギリスで創刊された国際的な総合医学誌です。

厳格な査読(ピアレビュー)を経た研究のみを掲載し、**The Lancet(ランセット)や New England Journal of Medicine(NEJM)**と並ぶ、世界三大医学誌の一つとされています。

 

臨床医学から公衆衛生、医療政策まで幅広い分野を扱い、世界中の医師がガイドライン作成や臨床判断の根拠として参照しています。

 


 

 

🔬 アンブレラ・レビューとは?研究の全体像を統合的に評価

 

 

今回のBMJ論文(BMJ 2025;391:e088141)は、**「アンブレラ・レビュー(umbrella review)」**という形式で行われました。

 

これは、すでに発表されている複数の「メタ解析」や「系統的レビュー」をさらに統合し、研究全体を俯瞰的に評価する手法です。

 

🧩 たとえるなら──

個々の研究を「声」とするなら、メタ解析は「合唱」。

アンブレラ・レビューは、その合唱を全体で聴き直すようなアプローチです。

 

この研究では、40件の観察研究や兄弟姉妹比較研究を再解析し、数百万人規模のデータを再評価しました。

 


 

 

🧬 主な対象・方法:40件の研究・最長18年の追跡

 

 

対象は、妊娠中にアセトアミノフェンを使用した母親と、使用しなかった母親の子どもたちです。

追跡期間は最長18年に及び、自閉症スペクトラム障害(ASD)、注意欠如・多動(ADHD)、知的発達の指標が検討されました。

 

複数の研究デザインの違いを補正し、使用時期・頻度・母体の疾患(発熱・感染など)も考慮した解析が行われています。

 


 

 

📊 結果:統合解析ではわずかな関連、兄弟比較では消失

 

 

全体の解析では、

 

  • 自閉症(ASD)リスク比:1.05

  • 注意欠如・多動(ADHD)リスク比:1.07

 

 

と、ごくわずかな上昇傾向がみられました。

 

しかし、兄弟姉妹を比較する研究(シブリング解析)では、いずれの発達指標についても有意差は消失しました。

 

💡 Sheikhらの結論:

「妊娠中のアセトアミノフェン使用と自閉症・ADHDとの因果関係は確認されない。

これまで報告された関連の多くは、家庭環境や遺伝など共通因子による可能性が高い。」

 


 

 

🧭 解釈:薬そのものよりも背景因子の影響か

 

 

著者らは、“リスク上昇”とされた要因が、実際には「発熱」「感染」「炎症」など薬を使う必要があった状況そのものや、遺伝・家庭環境によるものである可能性を指摘しています。

つまり、「薬を使ったこと」自体が原因ではなく、「薬を使うような体調・背景」が共通していた可能性があるという解釈です。

 


 

 

⚠️ 「使わない」ことにもリスクがある

 

 

妊娠中に高熱や強い痛みを我慢しすぎると、母体や胎児の健康に悪影響を及ぼすおそれがあります。

 

英国医薬品庁(MHRA)、欧州医薬品庁(EMA)、オーストラリア医薬品庁(TGA)など、主要な公的機関はいずれも共通して次のように述べています。

 

「妊娠中に必要がある場合、医師の指導のもとでアセトアミノフェンを適切に使用することは認められる」

 

つまり、完全に避けるべき薬ではなく、必要なときに最小量・最短期間で安全に使う薬です。

 


 

 

💬 よくある質問(Q&A)

 

 

Q1. 妊娠中に熱が出たら、アセトアミノフェンを使ってもいいですか?

→ 医師が必要と判断した場合は使用できます。高熱を放置すると胎児に悪影響を及ぼすことがあります。最小限の量を最短期間で使用しましょう。

 

Q2. 市販薬にもアセトアミノフェンが入っていますが、飲んで大丈夫ですか?

→ 同じ成分でもカフェインなど他成分を含む場合があります。必ず医師または薬剤師に相談してから使用しましょう。

 

Q3. 長く使い続けると問題になりますか?

→ 一時的な使用であれば問題ありませんが、漫然と使わず、長く続く症状がある場合は医師にご相談ください。

 

Q4. 授乳中に使えますか?

→ 医師の管理のもとであれば使用可能です。母乳への移行はごく少なく、乳児への影響はほとんど報告されていません。

 

Q5. 副作用はありますか?

→ まれに肝機能障害などが起こることがあります。過量に注意し、異変を感じた場合は早めに受診してください。

「多めに飲めば早く治る」と考えないようにしましょう。

 


 

 

🩺 医師としてのまとめ

 

 

妊娠中のアセトアミノフェン使用は、現在の科学的根拠では「発達障害の原因」とは言えません。

これまでの関連報告の多くは、遺伝や家庭環境など共通因子による可能性が高いと考えられます。

一方で、発熱や痛みを放置することは母子の健康にとってリスクです。

 

自己判断ではなく、必要なときに最小量・最短期間で、必ず医師の指示に従って使用してください。

 


 

 

📚 参考文献

 

 

  1. Sheikh J, Allotey J, Thangaratinam S, et al. BMJ 2025;391:e088141(2025年11月10日公開)

     https://www.bmj.com/content/391/bmj-2025-088141

  2. European Medicines Agency (EMA). Paracetamol and pregnancy, 2025.

  3. Medicines and Healthcare products Regulatory Agency (UK). Use of paracetamol during pregnancy, 2025.

  4. 厚生労働省「妊娠中の薬の安全性に関する情報」2024年度版

 

 


 

🏥 戸塚クリニック 院長より

「科学の“声”を社会へ、やさしく届ける」——これからも、そんな発信を続けていきます。

 

 

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