2025/09/23
👶🤰💊 妊娠中のカロナール使用と子どもの発達リスク
〜「胎内」と「生後」をめぐる議論と、科学が示す本当の安心〜
📰 アメリカからの衝撃ニュース(2025年9月22日)
2025年9月22日、アメリカで大きな発表がありました。
トランプ大統領が、妊娠中のカロナール(アセトアミノフェン/Tylenol)使用と、子どもの自閉症スペクトラム障害や注意欠如・多動性障害など発達障害リスクの増加に言及し、米国食品医薬品局(Food & Drug Administration:FDA)にラベル改訂を指示しました。
この会見にはロバート・F・ケネディ Jr. 保健福祉長官も同席し、HHS(保健福祉省)が妊婦への注意喚起キャンペーンを行うことも発表されました。
主要メディアの報道:
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👉 米国食品医薬品局(FDA)が出した公式声明
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New York Times は「科学的根拠よりも政治的色彩が強い」と分析。
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Washington Post は「FDAも“因果関係は未証明”と慎重姿勢を崩していない」と報じています。
🤔 ケネディ氏の矛盾 ― 「生後」と「胎内」
今回の発表はトランプ大統領によるものでしたが、同席したケネディ長官も強く支持しました。
ケネディ氏はかつて、「ワクチン(=生後)」が自閉症の原因だと繰り返し主張してきました。ところが今回は、「妊娠中の薬(=胎内)」が原因ではないかと方向を変えています。
👉 生後と胎内というまったく異なる時期を対象にしながら、いずれも自閉症の原因と結びつける姿勢は、一貫性を欠くとの批判があります。
📚 科学が実際に示していること
ここからは専門用語も含め、研究結果に基づいて説明します。
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スウェーデン全国コホート(JAMA 2024)
約248万人を対象に、生まれる前のアセトアミノフェン曝露と子どもの自閉症スペクトラム障害(ASD)、注意欠如・多動性障害(ADHD)、知的障害との関連を調査。
通常分析では関連が見られましたが、兄弟比較(sibling control)分析では有意差は消失。
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Mount Sinai・Harvardレビュー(2025年8月)
46件の研究を統合解析。妊娠中のアセトアミノフェン使用とASD/ADHDリスクの関連が示唆され、特に長期・高用量使用で関連が強まる傾向。
ただし観察研究中心で、交絡因子の影響を完全には排除できない。
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ノルウェー母子コホート(MoBa研究, 2023)
妊娠中28日以上の長期使用とADHD発症の関連を報告。ただし兄弟比較モデルを用いると関連は弱まり、交絡因子の影響が強い可能性。
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Nature の分析(2025年9月)
Nature の記事 “Trump links autism & Tylenol: is there any truth to it?” は、こうした関連を示す研究について検証しています。
ここでいう「関連」とは、「妊娠中にアセトアミノフェンを使った妊婦の子どもにASDやADHDがやや多いと観察研究で報告されている統計的な傾向」 を指します。
ただしこれは 相関関係にとどまり、因果関係(薬が直接の原因)を意味するものではありません。
Natureは「交絡因子を排除できていない」「政治的メッセージに利用されすぎている」と指摘し、専門家の多くは従来通り「必要最小限の使用は妊娠中も安全」としています。
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妊娠中の発熱そのもののリスク
発熱と先天異常や発達障害の関連は、複数の研究で報告されています。高熱を放置すると、流産や神経管欠損(NTDs)などのリスクが増加。
👉 Meta-analysis: Fever during pregnancy and offspring risk (PMC, 2021)
👉 Systematic review: Fever in pregnancy and congenital outcomes (PubMed, 2014)
👉 Maternal hyperthermia and neural tube defects (PubMed, 2005)
🔎 薬が原因か?それとも交絡因子か?
妊婦さんは基本的に薬を避けます。アセトアミノフェンを飲むのは、**「どうしても必要な高熱や強い痛みがあるとき」**です。
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背景には必ず 有熱疾患 が存在
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高熱そのものが胎児に影響する可能性も高い
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他の解熱剤は妊娠中ほぼ使えないため、アセトアミノフェンが唯一の選択肢
👉 したがって「薬を飲んだ妊婦で自閉症リスクが高かった」というデータがあっても、薬のせいなのか、背景疾患や発熱のせいなのかは切り分けられないのです。
🇯🇵 日本の対応
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PMDA(2025年9月)
妊娠後期の高用量使用で胎児動脈管収縮リスクを指摘し、添付文書を改訂。
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日本産科婦人科学会(JSOG)
アセトアミノフェンは依然として妊婦にとって第一選択薬。
NSAIDs(イブプロフェンなど)は妊娠後期禁忌のため、相対的に安全性が高い。
💡 臨床での考え方
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妊婦が服用するのは「必要に迫られたとき」だけ
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背景疾患や高熱の影響を無視できない
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必要最小限・最短期間の原則を守れば安全性は高い
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むしろ熱を放置する方が、母体・胎児にとって危険
✅ まとめ 〜安心してください〜
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カロナールは妊娠中に安全に使える薬です。
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トランプ大統領が発表したニュースは衝撃的でしたが、科学的には因果関係は未証明。
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背景疾患や高熱が交絡因子として関わっている可能性が高く、薬だけを原因とするのは不適切です。
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熱や痛みを我慢する方が、母体や胎児にとって大きなリスクとなります。
どうぞ安心してください。
当院では国内外の研究を踏まえ、妊娠中の薬の使用についても丁寧にご相談に応じています。
📖 用語解説
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ASD(自閉症スペクトラム障害)
脳の発達の特徴により、対人関係やコミュニケーション、行動の柔軟性に違いがみられる状態。
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ADHD(注意欠如・多動性障害)
集中が続きにくい、不注意や多動が目立つといった特徴を持つ発達障害。
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NTDs(神経管欠損症)
妊娠初期に脳や脊髄の形成がうまくいかずに起きる先天性疾患で、二分脊椎や無脳症などを含む。
❓ FAQ(よくある質問)
Q1. ワクチンと自閉症の因果関係はありますか?
→ ありません。世界中の研究で否定されています。
Q2. カロナールは妊娠中に飲んでも大丈夫ですか?
→ 必要なときに短期間・少量なら安全とされています。
Q3. 妊娠後期に使っても平気ですか?
→ 高用量・長期使用は避けるべきですが、医師の判断で必要なら使用可能です。
Q4. 市販薬に含まれるカロナールも同じですか?
→ はい。同じ成分です。必ず医師や薬剤師にご相談ください。
Q5. 熱を我慢した方が安全ですか?
→ いいえ。高熱を放置する方が、流産や先天異常のリスクを高めます。