2026/03/06
【横浜・戸塚駅西口 徒歩10分/駐車場あり】
内科・循環器内科・糖尿病内分泌内科|戸塚クリニック
(院長:村松 賢一)
当院は「内科のかかりつけ」として、
高血圧・糖尿病などの生活習慣病や体調不良、
甲状腺を含む内分泌のご相談まで幅広く対応しています。
予約優先制ですが、予約なしでも受診可能です。
(予約をおすすめする理由は待ち時間を短くするためです。
混雑時はお待ちいただく場合がありますが、症状に合わせて柔軟に対応します)
症状が気になる方は、ご都合のよいタイミングでお越しください。
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「前糖尿病を整えた。それでも薬が必要なの?」|早期薬物治療という選択肢(横浜市戸塚区)

TL;DR(結論)
糖尿病とは:血糖(血液中のブドウ糖)が慢性的に高い状態が続き、血管・神経などの合併症リスクが上がる病気です。糖尿病には主に「1型」と「2型」があり、原因と治療の考え方が異なります(本文のアコーディオンで解説します)。
← 前回記事の続きとして
前回の記事では、前糖尿病(境界型)の段階で血糖を整えることの意味についてお伝えしました。「多因子管理を早く始めること」「血管のレガシー効果(記憶)」という概念をご紹介しましたが、読んでいただいた方から、こんな疑問をいただくことがあります。
「生活習慣を頑張ったのに、まだ血糖が下がりきらない。次は薬しかないのか……」
「薬を早く使うのは良くないと思っていたけれど、本当にそうなのか?」
今回は、この「早期薬物治療」というテーマを正面から取り上げます。近年は、「必要な時に早めに薬を使うことで、将来の合併症リスクを下げる」という考え方が、世界共通の標準になりつつあります。
※本記事は一般的な医療情報です。症状が強い・急な体調変化がある場合は早めに医療機関へご相談ください。研究結果や数値は「集団の傾向」であり、個人の結果を保証するものではありません。治療内容や効果には個人差があり、すべての方に同様の効果を保証するものではありません。
「薬は最後の手段」という思い込みを、一度解いてほしい
日本では根強く、「薬を使い始めたら一生やめられない」「まだ我慢できる段階では薬を使わないほうがいい」という考え方があります。
気持ちはよく分かります。でも、この考え方が逆にリスクになるケースがあることを、今日はお伝えしたいのです。
前回お伝えしたレガシー効果(血管の記憶)を思い出してください。血管は「良い状態だった記憶」も「悪い状態が続いた記憶」も、どちらも保持します。薬を使わずに何年も「高め」の状態を放置することは、すべての方に当てはまるわけではありませんが、潜在的な将来リスクを高める可能性があります。
なぜ「早期」に使う薬が重要なのか
【クリックで開く】診断時の膵臓の状態を知っていますか?
2型糖尿病と診断された時点で、膵臓のβ細胞(インスリンを作る細胞)の機能はすでに約50%程度まで低下していると推定されています(UKPDS解析) [8]。 「まだ軽い糖尿病」に見えても、膵臓の中ではすでにかなりの負担がかかっている状態です。
早期薬物治療の目的は、大きく3つです。
① β細胞を「今以上に疲弊させない」こと
高血糖が続くと、膵臓はより多くのインスリンを出そうとして、さらに疲弊します(糖毒性)。早めに薬で血糖を下げることは、膵臓を休ませることでもあります。
② インスリン抵抗性を早めに改善すること
肥満や内臓脂肪が多い場合、筋肉や脂肪細胞がインスリンの働きをブロックします。薬の力を借りることで、生活習慣改善と組み合わせてより早く確実に改善できます。
③ 血糖以外のリスク因子を同時に整えること
糖尿病の合併症リスクは血糖だけで決まりません。体重・血圧・脂質の「合算」で決まります。理想的な薬は、血糖を下げながら体重や血圧にも良い影響を与えるものです。
【クリックで開く】「1型糖尿病」と「2型糖尿病」の違いとは?
結論:両者は「原因」が違います。似た名前でも、治療の考え方が大きく異なります。
1型糖尿病(Type 1)
- 原因:主に自己免疫の影響で、膵臓のβ細胞が障害され、インスリンがほとんど出なくなるタイプ。
- 発症:小児〜若年に多い一方で、成人発症もあります(ゆっくり進むタイプも)。
- 体型:やせ型の方も多い(ただし個人差があります)。
- 治療:インスリン治療が基本です。インスリンを補うことが生命維持に直結します。
2型糖尿病(Type 2)
- 原因:生活習慣・遺伝などが重なり、インスリンが効きにくい(抵抗性)+出にくい(分泌低下)が進むタイプ。
- 発症:中高年に多いですが、近年は若年化も進んでいます。
- 体型:肥満が関与することが多い一方、日本人ではBMIが高くなくても起こり得ます(いわゆる「痩せ型スパイク」など)。
- 治療:食事・運動に加えて、内服薬や注射薬(GLP-1/GIPなど)を組み合わせ、必要に応じてインスリンも使用します。
※本記事で扱っている「早期薬物治療(チルゼパチド等)」は、主に2型糖尿病や肥満症を背景としたケースで議論される内容です。1型糖尿病が疑われる場合(急激な体重減少・強い口渇・尿量増加など)は、早めの受診をおすすめします。
チルゼパチドとは:GLP-1/GIPデュアル作動薬の現在地
近年、海外のガイドラインなどでも大きく注目されている薬の一つがチルゼパチド(商品名:マンジャロ®)です。従来のGLP-1受容体作動薬(セマグルチドなど)に「GIP(グルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド)」というもう一つのホルモンの力を加えた「デュアル(2重)」作動薬です [7]。
| 項目 | GLP-1単剤 (セマグルチド等) |
チルゼパチド (GIP/GLP-1デュアル) |
|---|---|---|
| 血糖低下(2型糖尿病) | ✓ | ✓✓(より大きな低下) |
| 体重減少 | ✓ | ✓✓(より大きな減少) |
| β細胞保護 | ✓ | ✓✓(GIPの上乗せ効果) |
| インスリン抵抗性改善 | ✓ | ✓✓(脂肪・筋肉への直接作用) |
| 心血管安全性 | ✓(GLP-1薬として確立済み) | ✓(非劣性確認・優越性は統計的に未達) |
重要な補足:「血糖・体重の改善幅」はチルゼパチドのほうが大きいことが複数の試験で示されています [1] [2]。 一方、「心筋梗塞・脳卒中などの心血管イベント予防」については、現時点では既存のGLP-1薬と同等レベルの安全性が確認されており、明確に上回るとは言い切れない状況です [3] [4]。 「劣っている」という意味ではなく、「すでに確立された薬と肩を並べた」というエビデンスです。
2つの試験で見えてきたこと:血糖・体重・心血管
チルゼパチドのエビデンスとして、特に重要な2つの試験をご紹介します。
2型糖尿病患者での血糖改善:SURPASS-2試験
2型糖尿病患者を対象にチルゼパチドとセマグルチド(GLP-1単剤)を直接比較した試験(SURPASS-2)では、HbA1cの低下幅はチルゼパチドが全用量でセマグルチドを有意に上回りました [1]。
| チルゼパチド用量 | HbA1c低下幅 | セマグルチド1mgとの差 |
|---|---|---|
| 5 mg | −2.01% | −0.15%ポイント(P=0.02) |
| 10 mg | −2.24% | −0.39%ポイント(P<0.001) |
| 15 mg | −2.30% | −0.45%ポイント(P<0.001) |
| セマグルチド 1mg | −1.86% | (比較対照) |
※この差は「集団の平均」です。個人の結果は体型・病歴・他の薬などにより異なります。実際の診療では、用量を1人ずつ調整していきます。
肥満患者での体重減少:SURMOUNT-5試験
肥満があるが糖尿病のない方を対象とした直接比較試験(SURMOUNT-5)では、72週後の体重変化率はチルゼパチド−20.2%対セマグルチド−13.7%(差 −6.5%ポイント)と、チルゼパチドが有意に優れていました [2]。
【クリックで開く】体重20%減少というのは、どれくらい?
体重80kgの方なら約16kgの減少に相当します。体重が5〜10%減るだけで血圧・中性脂肪・善玉コレステロール(HDL)・インスリンの効きが改善することが分かっており、20%はその倍以上の代謝的恩恵をもたらす可能性があります。
医学的には「体重を5〜10%減らすこと」が一つの目安であり、それ以上の減量を目指すかどうかは、体調・筋肉量・骨密度の変化も見ながら一緒に決めていきます。
2型糖尿病がない肥満の方への注記:SURMOUNT-5は主に「糖尿病のない肥満の方」を対象とした試験です。2型糖尿病合併の方での直接比較(チルゼパチド vs セマグルチド)は、別途SURPASS-2などの2型糖尿病試験のデータが参考になります [1]。
「心臓への影響」についても、答えが出ています
「新しい薬は心臓に負担がかからないの?」という疑問は当然です。

大規模心血管アウトカム試験(SURPASS-CVOT)では、チルゼパチドを心血管保護効果が確立されている既存薬(デュラグルチド)と比較した結果、主要心血管イベント(MACE)において「非劣性」——つまり少なくとも同等の安全性——が確認されました [3]。
また、実臨床データに基づく大規模研究でも、チルゼパチドとセマグルチドの心血管リスク低減は近似しており、「どちらが明らかに心臓に有利」という結果にはなっていません [4]。
【クリックで開く】「非劣性」とは?
「非劣性(non-inferiority)」とは、「事前に設定した許容範囲内で、比較薬に劣っていないことを統計的に証明した」という試験設計です。「優越性(明確に上回る)」とは異なります。
現時点のまとめとしては、「心血管の安全性は少なくとも同等レベルで確立されており、明らかな上乗せ効果はこれからの研究待ち」という位置づけです [3]。
重い心不全・腎臓病のある方は?

サブグループ解析を含む報告では、HFpEFやCKDがある方でも、チルゼパチドの効果は一貫しているという示唆が得られています [5]。
一方で、「重症心不全」や「透析が近い段階の高度な腎機能低下(eGFR 15未満)」の方は、多くの試験から除外されており、まだ十分なデータが揃っていません。こうしたケースでは体重を急に落としすぎると筋力低下やフレイルにつながる懸念もあるため、専門医と連携しながら慎重に検討する必要があります。
早期薬物治療が向いている方のプロファイル
すべての方に早期からの薬物治療が必要なわけではありません。以下に当てはまる方は、薬の力を早めに借りることを積極的に検討する根拠が強いと考えます(国内ガイドライン等も踏まえ、個別に最適化します) [9]。
早期開始を検討しやすいプロファイル:
- BMI 25以上(肥満合わせ持ち) の2型糖尿病・前糖尿病
- 2型糖尿病診断後5年以内(β細胞機能が比較的保たれている段階)
- HbA1c 7〜9%台(単剤で目標に届きやすい段階)
- 高血圧・脂質異常症も重なっている(多因子を同時に管理したい)
- 生活習慣改善だけでは体重がなかなか落ちない
- 心血管リスクが複数重なっている
慎重な判断が必要な状況(医師と相談を):
- 重篤な腎機能障害(eGFR 15未満):安全性データ限定的
- 膵炎の既往:リスクをモニタリング
- 甲状腺髄様癌の個人・家族歴:禁忌
- 妊娠中・授乳中:使用不可
- 重症心不全・高度腎機能低下:エビデンスギャップあり、専門医要相談
日本人特有の注意点:「痩せ型スパイク」
日本人はインスリン分泌が弱いタイプが多く、欧米人に比べてBMIが低くても食後血糖が高くなりやすいという特徴があります。この「痩せ型スパイク」では、インスリン抵抗性よりも分泌不全が主因であることが多く、β細胞機能を保護しながら分泌を助ける薬が理論的に相性が良いと考えられます [8]。
「自分は痩せているから大丈夫」とは必ずしも言えません。空腹時採血だけでは食後スパイクは見えないため、必要に応じてOGTTやCGMでの評価が参考になることがあります。
当院での考え方:薬は「生活習慣の否定」ではない
外来でよく聞かれます。「薬を飲み始めたら、生活習慣を頑張る必要はなくなりますか?」
答えは「いいえ」です。薬と生活習慣改善は車の両輪です。でも同時に、「生活習慣が完璧でないから薬を始めるのは甘え」という考え方も、医学的には正確ではありません。
薬を使うことは、「燃費の悪くなったエンジン(体)」を修理しながら走るようなもの。修理すれば、食事や運動という「燃料」もより効率よくエネルギーに変わります。
これまでの生活を責める必要はありません。「今ここから、どうやって血管に”良い記憶”を増やしていくか」を一緒に考えるのが、私たち医療者の役割だと考えています。
糖尿病治療とは、「数値を下げること」ではなく、「血管の未来を設計すること」です。
よくある質問(Q&A)
Q1. チルゼパチドは「痩せ薬」ですか?
糖尿病・肥満症の治療薬として承認されており、体重減少効果も証明されていますが、「痩せること」が主目的ではありません。血糖・体重・心血管リスクを総合的に管理するための薬です。美容目的の使用は当院では対応していません。体重管理の医学的な目安は「5〜10%減少」であり、それ以上を目指すかどうかは体調・筋肉量を見ながら一緒に決めていきます [2]。
Q2. 週1回の注射と聞きましたが、痛いですか?
注射針はとても細く、多くの方が「思ったより全然痛くない」とおっしゃいます。携帯型のペン型デバイスで自己注射ができ、最初に使い方をしっかりご説明します。
Q3. 副作用が心配です
最も多いのは吐き気・胃もたれなどの消化器症状です。少量(2.5mg)から始めて4週ごとにゆっくり増量するため、多くの方で数週間のうちに慣れていきます。単剤では重症低血糖のリスクは低いとされています。なお、消化器症状による中止例も一定数あることは事実です(SURMOUNT-5でチルゼパチド群の約2.7%、セマグルチド群5.6%) [2]。 気になる症状が出た場合はすぐにご相談ください。一般に、消化器症状の「発生頻度」はやや高い傾向が示される一方で、「中止に至る割合」は比較的低く、用量調整で継続できる方が多いとされています。
Q4. 保険は適用されますか?
2型糖尿病の治療薬として保険適用があります(肥満症への適用については別途条件があります)。受診時に個別にご確認ください。
Q5. すでにほかの糖尿病薬を飲んでいますが、変更できますか?
可能なケースが多いです。現在の薬・検査値・体重などを総合的に見て判断します。健診結果や現在のお薬の情報をお持ちください。
横浜市戸塚区で、健康の「未来設計」をしたい方へ
前回の「多因子管理」と今回の「早期薬物治療」は、同じ目的に向かっています。
「あなたの血管に、悪い記憶を刻む時間を、できるだけ短くすること」
生活習慣を頑張ることと、薬の力を借りることは矛盾しません。健診で血糖を指摘された方・前糖尿病と言われた方・すでに治療中でも「このままで本当に大丈夫?」と思っている方、ぜひ一度ご相談ください。
戸塚駅周辺で糖尿病外来・前糖尿病の相談先をお探しの方も、お気軽にお声がけください。
※健診結果(今回分+過去分があれば)・現在のお薬の情報をそのままお持ちください。
▶ 次回予告:「マンジャロを始めてからの3ヶ月——用量調整・副作用対策・体重推移のリアル」を近日公開予定です。「やめたらリバウンドしますか?」「筋肉は落ちますか?」といった疑問にもお答えします。
関連情報
参考文献
- Frías JP, et al. SURPASS-2. Tirzepatide versus Semaglutide Once Weekly in Patients with Type 2 Diabetes. N Engl J Med. 2021;385:503-515. doi:10.1056/NEJMoa2107519 ↩本文へ
- Aronne LJ, Horn DB, le Roux CW, et al. SURMOUNT-5. Tirzepatide as Compared with Semaglutide for the Treatment of Obesity. N Engl J Med. 2025;393:26-36. doi:10.1056/NEJMoa2416394 ↩本文へ
- Nicholls SJ, Pavo I, Bhatt DL, et al. SURPASS-CVOT. Cardiovascular Outcomes with Tirzepatide versus Dulaglutide in Type 2 Diabetes. N Engl J Med. 2025;393:2409-2420. doi:10.1056/NEJMoa2505928 ↩本文へ
- Krüger N, Schneeweiss S, Desai RJ, et al. Cardiovascular Outcomes of Semaglutide and Tirzepatide for Patients with Type 2 Diabetes in Clinical Practice. Nature Medicine. 2025. doi:10.1038/s41591-025-04102-x ↩本文へ
- Packer M, Zile MR, Kramer CM, et al. SUMMIT Trial. Interplay of Chronic Kidney Disease and the Effects of Tirzepatide in Patients With Heart Failure With Preserved Ejection Fraction. J Am Coll Cardiol. 2025. doi:10.1016/j.jacc.2025.03.009 ↩本文へ
- Mamas MA, et al. Tirzepatide compared with semaglutide and 10-year cardiovascular disease risk reduction in obesity. Eur Heart J Open. 2025. doi:10.1093/ehjopen/oeaf117 ↩本文へ
- Razzaki TS, Weiner A, Shukla AP. Tirzepatide: Evidence for Early-Stage Type 2 Diabetes Treatment. Ther Clin Risk Manag. 2022;18:955–964. doi:10.2147/TCRM.S328056 ↩本文へ
- UK Prospective Diabetes Study (UKPDS) Group. Intensive blood-glucose control with sulphonylureas or insulin compared with conventional treatment. Lancet. 1998;352:837–853. Lancet Full Text ↩本文へ
- 日本糖尿病学会. 糖尿病診療ガイドライン2024. 日本糖尿病学会刊行物ページ ↩本文へ
※この記事は情報提供を目的としており、診断・治療の代替ではありません。症状が強い場合は早めに医療機関へご相談ください。
